【論稿】通常清算における実務上の見落としがちな留意点

(文責:弁護士 吉田和雅)

通常清算手続は、会社法所定の事由(会社法471条)による解散のうち、清算手続を伴う解散(同条1号乃至3号及び6号)がなされ、かつ、債務超過の疑いが無い場合に選択される手続ですが、意識的に気を付けていないと意外とつまずいてしまうような実務上の留意点を以下でご紹介したいと思います。

株式会社を解散するためには、株主総会での解散決議が必要となりますので、株主総会の招集手続を経る必要があります。

その招集に際して、(実務上は、通常清算手続が選択される場合には株主数は少ないことが多いと思われますが)株主が相当数存在するような会社で、かつ、今般のコロナ禍のような事情がある場合には、書面投票又は電子投票の方法を定めるケースもあると思います。

このような場合には、非公開会社であっても、総会開催日の2週間前までに招集通知を発送する必要がありますので(会社法299条1項)、解散決議直後に解散公告を実施することを想定して解散の官報公告の枠取りをする場合には、上記を踏まえて枠取りのスケジュールを策定する必要があります。なお、議決権行使の期限として「特定の時」を定めた場合には、当該特定の時を含む2週間前(中14日以上前)に招集通知を発送する必要がありますので(会社法施行規則63条3項ロ)、この点も注意が必要です。

また、実務上は、株主総会において期限付きの解散決議をすることが間々あります。判例上はこのような解散決議も有効と解されています(大判大正2・6・28民録19輯530頁)。しかしながら、登記との関係では注意が必要です。登記実務上の先例として、約6か月後に解散する旨の決議が行われた事案について、解散登記の申請を受理すべきでないとしているものがあり[1]、解散決議と解散日の間が開きすぎないようにする必要があります。

実務上は、解散に伴い、監査役を廃止することが比較的多く、それに伴い定款変更も併せて行うことが多いと思われます。

しかしながら、解散時に公開会社又は大会社であった清算株式会社では監査役の設置は必要的で(会社法477条4項)、委員会設置会社であった場合は監査委員が監査役となりますので(会社法477条5項)、注意が必要です。

解散後は、清算株式会社は遅滞なく、債権者に対し、2か月以上の期間(債権申出期間)を設けてその期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告する必要があります(会社法499条1項)。そして、債権申出期間中は原則として一切の債務について弁済が禁止されます。この点、同項の文言からすると、債権申出期間中のみ、即ち、官報公告の日の翌日から起算される債権申出期間が終了するまでの間のみ弁済禁止となりそうですが、総債権者の公平な弁済を保障しようとする会社法500条1項の趣旨から、裁判所によっては解散日から債権申出期間開始までの間も原則として弁済が禁止されるものと解し、解散日から債権申出期間開始までの間の弁済についても弁済許可申請を求める取扱いをしているところがあるようです。実際に、解散日から債権申出期間開始までの間の弁済について、弁済許可申請が提出され、許可が下りたケースがあるようですので、この点留意が必要です。

債権申出期間中は、債権申出期間中は原則として一切の債務について弁済が禁止されます。実務上は、その間に法人住民税等の公租公課の支払期限が到来してしまうことがままありますが、公租公課等の優先権がある債権や清算費用に関する債権も弁済禁止の対象となっているので、これらの弁済についても裁判所の許可が必要です。そのため、実務上は、債権申出期間中に支払期限が到来する公租公課や清算費用については解散前に代理人弁護士の預り金口座で預かっておいて、支払期限までに代理人弁護士において立替払いをし、預り金返還債務と立替金償還債務とを相殺する形で対応することもあるようです。

なお、債権申出期間内に裁判所の許可を得ないで弁済をした場合でも、その弁済自体は有効であるとするのが判例・通説ですが(大判昭和7・8・17新聞3460号10頁)。清算人は100万円以下の過料に処せられるおそれがあるので(会社法976条29号)、やはり許可を得るべきでしょう。ちなみに、弁済許可の申立ては、清算人が2人以上ある場合には、その全員の同意を得る必要があります(会社法500条2項後段)

債権申出期間中も、清算株式会社は債務の弁済以外の清算事務、即ち、現務の結了、債権の取立てといった清算事務を遂行しますが、債権の取立てとの関係でいえば、実務上の留意点としては、解散事業年度又は清算事業年度の確定申告に伴い、源泉税の還付等が伴うケースがあります。数円程度の僅少な額の場合も間々ありますが、その場合でも還付に相当の期間がかかってしまうことがあり、数円の還付のために清算事務が長引いてしまう事態になりかねません。そこで、還付金額が僅少な場合には、そもそも還付を請求しないことを検討してもよいと思われます。

清算事務が終了したときは、清算株式会社は遅滞なく、法務省令[2]の定めに従い決算報告を作成し(会社法507条1項)、株主総会の承認(普通決議)を得なければなりません(同条3項)。この点、法務省令により、決算報告には、債務の弁済、清算に係る費用の支払その他の行為による費用の額を記載することとされていますが、帳簿資料の保存(会社法508条1項)に関する費用、残余財産の分配先が不明な株主が存する場合のその残余財産分配金の供託にかかる費用は見落とされがちですので、この点漏れが無いよう留意が必要です。

参考文献

  山口和男『特別清算の理論と裁判実務-新会社法対応』新日本法規出版

  三森仁ほか『会社の廃業をめぐる法務と税務』日本法令

(作成日:2021年5月5日)

以上


[1] 東京法務局商業登記研究会編「商業法人登記速報集第1号~140号」日本法令(1996年)376、308頁。なお、解散日を決議の日から3日後とする解散決議がなされた事案において、解散登記の申請を受理して差し支えないとしたものとして昭和34年10月29日付民甲2371号民事局長回答、14日後に解散する旨の決議も可能としたものとして登記研究193号(1963年)72頁。

[2] 会社法施行規則150条。

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