特定調停とは

特定調停への概要

 特定調停とは、経済的に破綻するおそれのある債務者(特定債務者)の経済的再生のため、民事調停法の特例として、特定債務者が負っている金銭債務の利害関係の調整を促進するための民事調停の一類型です。根拠法は、「特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律」(特定調停法)です。特定調停法に規定のない事項については民事調停法にしたがうことになります。

 特定調停は、商取引に与える影響もなく、「倒産」のイメージも少ないので、事業価値の毀損も少ないという利点があります。また、特定の債権者だけを相手に特定調停を申立てることができるので、反対する債権者のみを相手方として利用できる点もメリットです。

 もっとも、調停手続であるため、当事者間で合意が成立し、それが調停調書に記載されることによりはじめて調停が成立することから(民事調停法18条)、同意しない債権者を法的に拘束することはできません。双方当事者が納得できる内容の合意ができない場合には、特定調停が不成立となり、手続は終了します(特定調停法18条)。

 中小企業の事業再生の手段として特定調停を利用する場合には、スムーズに特定調停を進めるために、特定調停の申立前に事前準備を十分にしておくことが重要になります。

 特定調停を申立てたとしても、経営改善計画案や金融機関に要望する事項がある程度固まっていないと、特定調停の期日が空転してしまいます。そこで、特定調停の申立前に、経営改善計画案を作成し、金融機関と再建策について協議しておくなどの事前準備をしておく必要があります。

 そして、そのような事前準備をした上で、①中小企業側が提案する再建案(リスケ・債権放棄等)に反対する金融機関に対してのみ特定調停を申立てる、②全ての取引金融機関に対して特定調停を申立てるという2つの方法が考えられます。どちらの方法で行うかについては、管轄の裁判所に確認した方が良いでしょう。

 特定調停を利用した場合、金融機関としても債権放棄額について損金処理が容易になるなどのメリットがある一方、特定調停という裁判手続きに巻き込まれることを嫌がる金融機関も想定されるので、どちらを利用するかについては、金融機関の要望を聞きながら企業側が最終的に判断することになります。

 特定調停は、裁判所における法的手続であり、一旦調停が成立すると、調停調書の調停条項の記載には、裁判上の和解と同一の効力、つまり、確定判決と同様の効果が認められることになります(民事調停法18条、民事訴訟法第267条)。したがって、特定調停により調停が成立している場合には、調停調書の記載を債務名義にして、債務者の財産に対し強制執行を行うことができます。

特定調停の制度の特徴

 特定調停の制度の特徴は次のとおりです。

① 調停委員

 調停手続では、通常は、調停委員2名と裁判官1名による調停委員会が組織され、申立人(債務者)と相手方(債権者)との間の合意の成立に向け、調整が試みられます。

② 民事執行の停止

 債務者の財産について、強制執行手続が進められている場合、債務者は、民事執行手続の停止の制度(特定調停7条)を利用することができます。

 特定調停における民事執行の停止は、通常の民事調停における執行停止と比べると、(ⅰ)担保の提供なくして執行停止をする余地がある、(ⅱ)「特定調停の円滑な進行を妨げるおそれがあるとき」にも執行停止が可能であり、執行停止の要件が緩和されている、(ⅲ)労働債権に基づくもの以外の全ての民事執行手続が停止の対象となるという点で、より強力な制度となっています。

③ 調停前の措置

 調停委員会は、調停のために特に必要であると認めるときは、当事者の申立により、調停前の措置として、相手方その他の事件の関係人に対して、現状の変更又は物の処分の禁止その他調停の内容たる事項の実現を不能にし又は著しく困難にする行為の排除を命じることができます(民調12条1項)。この規定は、調停申立から調停事件が終了するまでの間に、一種の保全処分を認めたものです。

 なお、調停前の措置命令には執行力はありません(民事調停法12条2項)。

④ 17条決定

 裁判所は、調停委員会の調停が成立する見込みがない場合には、当該調停委員会を組織する民事調停委員の意見を聴いたうえで、一切の事情を踏まえて、当事者双方の申立ての趣旨に反しない限度で、事件の解決のために必要な決定をすることができます(民事調停法17条)。これは「17条決定」と呼ばれています。

 特定調停における17条決定は、特定債務者の経済的再生に資するとの観点から、公正かつ妥当で経済的合理性を有する内容のものでなければならない(特定調停法20条、17条2項)。

 17条決定に対しては、不服のある当事者は決定の告知を受けた日から2週間以内に異議の申立を行うことができます。

 期間内に異議の申立がなければ、17条決定は確定し、裁判上の和解と同一の効力を有します(民事調停法18条3項)、この場合、当事者は、17条決定を債務名義として強制執行が可能となります。

 他方、異議の申立があった場合には、17条決定は効力を失います(民事調停法18条)。もっとも、裁判所の決定であるため、金融機関も、これを尊重して、異議の申立を行なわないことが期待できます。

特定調停の手続の流れ

 特定調停の手続の流れは、①債務者による特定調停の申立(申立てをする裁判所は簡易裁判所となります)、②裁判所における調停期日の開催(数回に及ぶことが多い)、③話し合いがまとまれば調停成立、まとまらなければ調停不成立、④場合により裁判所の17条決定、という流れとなっています。

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