第二会社方式とは
第二会社方式とは、収益性のある事業(Good事業)を事業譲渡や会社分割により会社から切り離して、受け皿会社(第二会社)に引き継がせるとともに、不採算事業(Bad事業)は従来の会社に残したまま、従来の会社が特別清算や破産することによって清算する方法です。
この第二会社方式により、収益性のある事業は、新会社において再出発できる一方で、旧会社が抱えていた過剰債務や不採算事業は、特別清算や破産により処理されます。金融機関の有する貸付金は、特別清算や破産手続の中で処理され、清算配当されない部分は結果として債権放棄と同じ効果になります。その意味で第二会社方式は、実質的には債権放棄を受けるための一手段といえます。
第二会社方式のメリット
第二会社方式には次のメリットがあります。
法的整理手続では、法律によって強制的に債権カットがされますが、法的整理手続を経ない私的整理においては、金融機関は「任意」で債権放棄をすることになります。しかし、金融機関にとって、法的整理手続のように裁判所が関与しておらず、透明性・公平性が確実に確保されていない私的整理の中で、債権放棄の判断をすることは容易ではありません。
しかし、第二会社方式を使えば、債権放棄の手続自体は、特別清算や破産といった法的整理手続の中でされることになります。そのため、第二会社方式を使えば、金融機関からの債権放棄を受けやすくなるのです。
また、任意での債権放棄は、債権者として寄付金課税のリスクがあることから、金融機関が躊躇する場合もあります。しかし、法的整理手続を経れば、税法において、損金処理ができる規定が明確にされていることから、そのようなリスクはなくなります。
このようなことから、第二会社方式には、金融機関から債権放棄することについての了解を得やすいというメリットがあります。
さらに、債権放棄を受けた場合、その際に生じる債務免除益について、その全額を相殺できるだけの繰越欠損金が会社にないと、会社には債務免除益課税が生じます。しかし、第二会社方式を利用すれば、旧会社に債務免除益課税が生じたとしても、それは旧会社の問題であって、旧会社の特別清算・破産手続の枠内で処理すればよく、事業を譲り受けた新会社は、原則として債務免除益課税について心配する必要はありません。
加えて、収益性のある事業については、過去の簿外債務や粉飾決算といった旧会社のしがらみから逃れて、フレッシュな状態で事業をスタートすることができます。そのため、新会社においては、金融機関からの新規借り入れや、スポンサーを見つけることが容易になります。
このように様々なメリットがあることから、中小企業の再生において、第二会社方式は比較的良く利用されています。
事業譲渡型と会社分割型
第二会社方式には、事業を受け皿会社に承継させる手法についての違いから、①事業譲渡型と、②会社分割型があります。
①事業譲渡型は、Good事業を事業譲渡という法形式で受け皿会社に移転させます。事業譲渡というのは、売主と買主との間で、取引先との契約、従業員との契約、各種資産といった事業全体について、売買契約を締結して譲渡するということです。これに対して、②会社分割型は、収益力のある事業を会社分割という法形式で受け皿会社に移転させます。会社分割型は、さらに、会社分割の方式によって、単独分割型と、吸収分割型にわけることができます。
単独分割型とは、会社分割により、Good事業を移した新会社の株式を、旧会社が一度取得し、旧会社が、その株式を新たな株主に譲渡するというスキームです。吸収分割型は、新株主が設立した受け皿会社に対して、旧会社がGood事業を吸収分割させるというスキームです。
事業譲渡は、契約、資産、負債について個別に譲渡するという発想に基づいています。これに対して、会社分割は、会社法の規定により、契約、資産、負債をまるごと移転するという発想に基づいています。それにより、これらの違いが生じます。そのため、事業譲渡の場合には、契約や負債の移転には相手方の同意が必要なのに対し、会社分割では、相手方の同意が不要とされる場合が多いです。
許認可については、一般論として、会社分割の方が移転が認められやすいといえます。
また、消費税や不動産取得税などの税務面でも会社分割の方が、一般的には有利です。
| 事業譲渡 (特定承継) | 会社分割 (部分的包括承継) |
長所 | ・ 契約・資産・負債等の選択承継が可能 ・ スピーディーに実行可能 ・ 従業員の選択承継が可能 ・ 労働契約承継法の手続履践が不要 | ・ 契約・資産・負債等の選択承継が可能 ・ 契約・資産・負債等の移転について相手方の同意は原則として不要 ・ 資産の移転コストが低い ・ 許認可が承継できる場合がある |
短所 | ・ 契約、資産、負債等の移転に相手方の同意が必要 ・ 資産の移転コスト(不動産取得税等)がかかる場合がある | ・ 労働契約承継法の手続履践が必要 ・ 従業員の承継については、従業員の希望が反映される場合がある ・ 会社分割の手続履践が必要、時間もある程度必要となる |
事業譲渡か会社分割かのどちらを選ぶかについては、以下の点が選択のポイントとなります。
- 契約の相手方は契約の移転に同意する見込みがあるか
- 負債を移転するか
- 従業員についてリストラを行なう予定があるか
- 移転する資産に不動産が含まれているか
- 迅速に実行する必要があるか
- 事業の遂行に許認可が必要か
移転対象とする資産・負債の決定
第二会社方式おける旧会社から新会社への移転する資産と負債の範囲ですが、資産については、Good事業を運営するのに必要な資産を移すことになります。例えば、運転資金として必要な現預金、売掛金、在庫、設備・備品、不動産といったものを移転させます。
他方、移転対象の候補となる負債については、借入金と買掛金があります。買掛金については、取引関係の維持のために受け皿会社に移転するのが通常です。これに対して、旧会社の借入金については、①旧会社にすべて残すという方式と、②過剰債務については旧会社に残すが、弁済可能な範囲の債務については新会社に移転させるという方式があります。つまり、②の方法では、新会社も旧会社の債務の一部を引き受けることになります。
①の場合には、債権者は、Good事業の移転の対価と旧会社に残った資産を換金したものから配当を受けることになります。②の場合には、債権者は、旧会社からは、旧会社に残った資産を換金したものから配当を受けるとともに、新会社からは、新会社に移転した貸付金から返済を受けることになります。
受け皿会社がGood事業の譲渡対価を一括して支払うことができない場合には、後者の方法をとって、受け皿会社が、その収益の中から、債権者に対して、少しずつ借入金を返済していくということになります。
譲渡対価の算定
第二会社方式では、旧会社は、Good事業を失ってしまい、清算をされるのを待つだけの会社となります。旧会社の借入金の処理について「旧会社にすべて残す」という方式を採った場合には、債権者に対する弁済は、事業譲渡や会社分割によって受け皿会社などから受け取る譲渡代金と、旧会社に残った事業や資産を換金したものなどから支払われることになります。事業譲渡や会社分割の対価をいくらとするかが、債権者への配当額と直結しますので、対価の決定が非常に重要となります。
他方、「一部の借入金を受け皿会社に移す」という方式を採った場合には、いくらの借入金を受け皿会社に移すかということが問題となります。
事業譲渡と会社分割のいずれの方法をとるにせよ、譲渡手続の中で「譲渡対価を決定する」というプロセスが入るため、移転するGood 事業の事業価値はいくらなのか、という議論が伴うこととなります。
この点、事業売却手続のなかで、競争入札を実施することができるのであれば、入札された価格は、市場価格を示すものとして、客観性のある数値をして用いることができます。しかし、中小企業の事業の売却においては、そもそも買い手が不在であり、競争入札を実施する意味がないのが一般的です。
そ こで、事業価値の算定は、理論的な数値を用いざるをえない場合がほとんどです。この事業価値の算定には、一般的に、DCF法、EVITDAマルチプル法、類似業種比較法などがあります。
事業譲渡・会社分割の手続
(1) 事業譲渡
事業譲渡をする場合には、会社法上、譲渡対象が事業の全部または重要な一部の場合には株主総会の特別決議が必要となります。特別決議とは、株主総会に出席した議決権金額の3分の2以上の賛成による決議です。
ここでの「重要な一部」とは、量的基準と質的基準の2つの観点から決定されることになります。ただし、譲渡対象資産の簿価が会社の総資産額の簿価の5分の1以下の場合には、簡易事業譲渡として、株主総会の特別決議は不要となります。
なお、株主総会において事業譲渡に反対する株主は、会社に対して株式を買い取るように請求する権利があります。
事業譲渡においては、契約や負債を移転するには、相手方の個別同意が必要です。また、資産の移転については、登記や登録といった資産移転の手続が必要な場合があります。
(2) 会社分割
会社分割をする場合には、会社法等の要請により、一定の手続きを踏む必要があります。手続全体の流れは下の図表のとおりです。
会社分割については、①原則として、株主総会の特別決議が必要なこと、②会社分割において承継させる資産の簿価が分割会社の総資産額の簿価の5分の1以下の場合には、事株主総会の特別決議は不要なこと、③反対株主には株式買い取り請求権があります。これらの点は、事業譲渡と同様です。
【図表】 会社分割の流れ
分割計画承認の取締役会
↓
労働者・労働組合との協議開始
↓
株主総会招集通知の発送
↓
分割計画承認の株主総会(特別決議)
↓
[債権者異議申述公告](場合による)
↓
分割効力発生日
↓
事後備置書類の備置
旧会社の清算方法
第二会社方式では、抜け殻となった旧会社を清算することになります。その清算の方法として、特別清算と破産が考えられます。ここでは特別清算について簡単に説明します。
特別清算とは、債務超過の可能性などがある株式会社について、裁判所の監督の下で行われる清算手続です。
特別清算では、株主総会で選任された清算人が、債権放棄について定めた協定案、または個別の和解案を作成します。協定案は債権者集会において債権者の決議にかけられ、債権者集会に出席した議決権者の過半数かつ議決権総額の3分の2以上の多数の賛成があり、裁判所が認可すれば、協定案はすべての債権者を拘束します。つまり、協定案に反対した債権者に対しても、債権放棄を強制することができます。なお、和解の場合には相手方の同意が必要となります。
特別清算は、裁判所が監督する法的整理手続ですので、手続の公平性・透明性が確保されています。また、特別清算手続の中で行われた債権放棄については、税務上も明確に損金処理をすることができるとされているので、債権者にとっても税務上のリスクがありません。
ただし、協定案が可決されるためには、破産手続と異なって、出席債権者の頭数の過半数と総債権額の3分の2以上の賛成を得ることが必要ですので、特別清算手続を利用して債権放棄を受けるためには多数の債権者が了解していることが前提となります。
第二会社方式では、旧会社の清算方法として、特別清算と破産のいずれを選ぶのかが問題となりますが、一般的には、特別清算が好まれます。
その理由としては、①特別清算の方が、世間的に破綻というイメージが持たれていないため、世間の印象が良いこと、②株主総会で選任した清算人が手続きを進めるため、手続のコントロールがしやすいこと、③破産よりも手続が柔軟であり使い勝手が良いことが挙げられます。ですから、旧会社の清算方法としては、特別清算が第1の選択肢となります。
もっとも、先ほど述べた通り、特別清算では、協定案の可決には多数の債権者の賛成が必要ですので、その賛成が取れる見込みがあることが必要となります。賛成が取れる見込みがない場合には、特別清算手続は選択肢から外さざるを得ません。
また、旧会社において、租税等の滞納があり、それらを全額弁済ができない場合には清算手続を結了することができないため、特別清算手続は選択肢から外さざるを得ません。
それらの場合には、破産手続を選択せざるを得ないということになります。ただし、租税債権等は法的整理においても優先債権であり、租税については第二次納税義務もあるため、租税等の滞納の支払を行ってから第二会社方式を利用する必要があるでしょう。
濫用的会社分割
近時、会社分割の制度を悪用して、債権者の知らない間に、会社分割によりGood事業部門を他の会社に移して借金を踏み倒すという方法が問題となっています。
このような会社分割の手法は、「濫用的会社分割」と呼ばれています。
会社法では、会社分割をしても、会社分割後も債権者が旧会社に対して債権全額を請求できる場合には、会社は、その債権者に対して会社分割することを通知する義務がありません。
そこで、悪賢い経営者は、債権者に知らせずに、こっそりと会社分割をして、自分や親族がオーナーになっている新会社にGood事業を移し、もぬけの殻にした旧会社の借金を踏み倒すということが、一応は可能となるのです。
経営者自身が悪賢くなくても、「再生コンサルタント」などと自称する者が、経営難の会社の経営者に近づき、「会社を再生させる良い方法がありますよ」と経営者に、濫用的会社分割の利用を(高いコンサルタント料とともに)持ちかけ、悩んでいる経営者がこれに飛びついてしまうということが起こります。
しかし、会社の事業をそのまま維持したまま、会社の借金を払わなくてもいいというようなおいしい話が、そうそう世間に転がっているはずがありません。もし、そんなことが本当に可能であれば、経営難に陥っている会社は、誰もがそうするはずです。
このような濫用的会社分割については、債権者は、詐害行為取消権(民法424条以下)という権利を行使して、会社分割による資産の移転を取消しすることができます。ですから、債権者に黙って会社分割をしてGood 事業を他の会社に移すことができたとしても、それに気が付いた債権者が詐害行為取消権を行使すれば、その移転行為は取り消されてしまうのです。
最高裁判所も、濫用的会社分割に対して債権者が詐害行為取消権を行使した事案について、次のような判決を下しており、詐害行為取消権の行使を認めています。
株式会社を設立する新設分割がされた場合において、新設分割設立株式会社にその債権に係る債務が承継されず、新設分割について異議を述べることもできない新設分割株式会社の債権者は、民法424条の規定により、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消すことができると解される。この場合においては、その債権の保全に必要な限度で新設分割会社への権利の承継の効力を否定することができるというべきである。
ですから、濫用的会社分割をしても、その瞬間は上手くやったようにも見えても、あとあと債権者との間でトラブルとなりますし、最終的には、Good事業の移転の効力も否定されてしまいます。結果的には、濫用的会社分割は、やるだけ無駄なのです。その時、自称「再生コンサルタント」が責任を取ってくれるわけではありません。
もっとも、すべての会社分割が濫用的会社分割なのではなく、ここで取り上げた第二会社方式などは会社の再生手法として広く認められています。事業再生に役立つ「良い会社分割」と濫用的会社分割である「悪い会社分割」があり、これらは区別されます。
そして、その区別は、①会社分割が事業再生の目的にかなうか、②事前に主要債権者に対して会社分割することを通知・説明しているか、③会社分割により債権者の回収率があがったか、ということがポイントになります。