債務者区分・債権区分

 金融機関は、返済可能性が低い債権をきちんと把握し、早期に対応するために、貸付金について自ら査定して分類をします。この分類作業を自己査定といいます。

 この自己査定は、各金融機関が自主的に作成している「自己査定ルール」などに基づいて行われます。

 金融機関は、この債務者区分・債権区分に基づいて、貸付先に対する行動パターンを変えてきます。そのため、この債務者区分・債権区分を理解することが、金融機関の行動を理解し、交渉を進めるうえで重要となります。

債務者区分

金融機関における自己査定では、貸出先である債務者について、その財務状況、経営状況に応じて、返済能力を判断して、次の5つに分類します。

① 正常先

 業績が良好であり、かつ財務内容にも特段の問題がないと認められる債務者

② 要注意先

 金利減免・棚上げを行っているなど貸出条件に問題のある債務者、元本返済もしくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題のある債務者のほか、業況が低調ないし不安定な債務者または財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者

 なお、要注意先については、その中で「要管理先」という分類を設ける金融機関もあります。

要管理先は、要注意先のうち、3か月以上延滞または貸出条件を緩和している債務者とされています。

③ 破綻懸念先

 現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画などの進捗状況が芳しくなく、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者

④ 実質破綻先

 法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、債権の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者

⑤ 破綻先

 法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者

 このように債務者が区分されることになりますが、リスケや債権放棄を要請する中小企業は、上記の債務者区分のうちの②要注意先か要管理先に該当することが多いと思われます。

 貸付金については会計ルールにより、回収不能額を見込んで貸倒引当金を計上しなければなりません。貸倒引当金が計上されれば、金融機関の会計上の利益は減少することになります。実際に回収が可能であろうとなかろうと、貸倒引当金を積んだ時点で金融機関の利益は減少し、会計上は金融機関の利益が悪化するので、金融機関の経営陣としては、なるべくそのようなことは避けたいと考えるのです。

この貸倒引当金は、基本的に過去の貸倒実績率により見積もられるため、個々の金融機関によって異なりますが、担保によって保全されていない貸付金の引当金は、大体次のような数値イメージとなります。

①正常先 0.1~0.5%

②要注意先 3~8%

②′要管理先 15~30%

③破綻懸念先 50~80%

④実質破綻先 100%

⑤破綻先 100%

 金融機関としては、貸付先が、要管理先から要管理先以外の要注意先に「ランクアップ」したり、要注意先から正常先に「ランクアップ」すれば、引当てなければならない引当金が大幅に減ることになります。

また、ランプアップできないにしても、貸出先が、要注意先から要管理先に「ランクダウン」することを防ぐことができれば、引当金の積み増しが不要となるのです。

そのため、金融機関にとっては、貸付先がランクアップすることや、ランクダウンすることを防止することにはメリットがあるのです。

債権区分

 債務者区分は、債務者に注目した区分でしたが、同じ債務者でも、担保付債権と担保がついていない債権では回収率が異なります。そこで、金融機関の保有する債権(資産)について、債務者区分ごとに、貸付金について担保・保証などによる債権回収の可能性を評価して、回収リスクに応じて4つに分類します。この分類も、引当金の計上に影響してきます。

① 非分類

 回収の危険性または価値を損なう危険性について問題のない資産です。

 「正常先」に対する債権と、「正常先」以外の債務者区分の債務者に対する債権のうち預金担保など優良担保・保証などで保全された部分がこれに該当します。

② Ⅱ分類

 債権確保上の諸条件が満足に満たされないため、あるいは、信用上疑義が存するなどの理由により、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権などの資産です。

 「要注意先」に対する債権のうち非分類以外の部分と、「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」に対する債権のうち不動産担保などの一般担保・保証などで保全された部分がこれに該当します。

③ Ⅲ分類

 最終の回収または価値について重大な懸念が存し、従って損失の発生の可能性が高いか、その損失額について合理的な推計が困難な資産です。

 「破綻懸念先」に対する債権のうち非分類・Ⅱ分類以外の部分と、「実質破綻先」「破綻先」に対する債権のうち、担保の評価額と処分可能見込額との差額部分がこれに該当します。

④ Ⅳ分類

 回収不能または無価値と判定される資産です。

 「実質破綻先」「破綻先」に対する債権のうち、非分類・Ⅱ分類・Ⅲ分類以外の部分がこれに該当します。

開示債権

 銀行は、その保有する不良債権などの状況について、銀行法と、金融再生法の2つの法令により、開示することが求められています。

 金融機関としては、世間から「この金融機関は不良債権が多い」と思われたくないことから、リスク管理債権や開示債権(=不良債権)の金額をできるだけ減らしたいというインセンティブが働きます。

ランクアップ

 貸付金がリスケされた場合、原則として、自己査定においては、その貸付金は貸出条件緩和債権となります。その結果、貸付先は要管理先となり、また、その貸付金は、銀行法や金融再生法によって、金融機関は、不良債権として開示することが求められることになります。

 しかし、金融庁の監督指針においては、貸出条件緩和債権であっても、一定の場合には要管理債権や不良債権として取扱わなくても良いとされています。

 つまり、リスケにより要管理先の債権となるのが原則であるところ、一定の条件を満たせば、正常先や要注意先として取り扱うことができ、債務者区分・債権者区分をランクアップすることができるのです。

(1) 実抜計画

 すなわち、貸出条件の変更が行われた場合でも、「実現可能性の高い抜本的な債権計画」が策定していれば、貸出条件緩和債権に該当しないとされています。この「実現可能性の高い抜本的な債権計画」は、略して「実抜計画」と呼ばれています。

 この実抜計画とは、具体的には以下の全てを満たす計画をいいます。

① 計画の実現に必要な関係者の同意が得られていること

② 支援額が確定しており、追加的支援が必要ないと見込まれていること

③ 計画中の売上高、費用及び利益の予測等が厳しく見積もられていること

 「抜本的な」とは、概ね3年後の債務者区分が正常先となることをいいます。但し、この3年という期間については、債務者企業の規模又は事業の特質を考慮した合理的な延長を排除しないとされています。

さらに、債務者企業が中小企業である場合には、以下の変更が加えられています。

① 上記の「概ね3年」のところが「概ね5年」とされています。さらに、5年から10年で計画通りに進捗している場合でも良いとされています。

② 「概ね5年後」の債務者区分について、正常先になることに限られず、計画終了後に自助努力によって事業の継続性を確保できれば要注意先であっても良いとされています。

③ 実抜計画を作成していない場合であっても、1年以内に実抜計画を策定する見込みがある時は、1年間は貸出条件緩和債権に該当しないものとすることできます。

 このように、中小企業がリスケをしたとしても、実抜計画を作成していれば、要管理債権から正常先や要注意先にランクアップすることができます(さらに言えば、実抜計画を作成していなくても、1年以内に実抜計画を策定する見込みがある時は、1年間の猶予期間があります)。

(2) 合実計画

以上の実抜計画によるランクアップに加えて、中小企業においては、経営改善に時間がかかることが多いことから、「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」が策定されている時には、金融機関の自己査定における債務者区分について、破綻懸念先から要注意先にランクアップすることができるとされています。この「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画」は、略して「合実計画」と呼ばれています。

 この合実計画とは、具体的には以下の全てを満たす計画をいいます。

① 計画期間が原則として5年以内で、計画の実現可能性が高いこと

② 計画期間終了後の債務者区分が原則として正常先となる計画であること。もっとも、計画終業後に自助努力により事業の継続性を確保できれば要注意先でも良いとされています。

③ 全ての金融機関等において支援を行うことについて合意されていること

④ 支援内容が金利減免等にとどまり、債権放棄などの資金提供を伴わないこと

 経営改善計画支援事業との関係でいえば、作成する経営改善計画が、「実抜計画」や「合実計画」の要件を満たしていれば、その計画に応じたランクアップをすることが可能となるということになります。

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