【論稿】破産管財人による債務承認の時効中断効に関する判例(最決令和5年2月1日)の紹介

(弁護士 広瀬 里美)

【事案の概要】

1 Yは、Xが所有する各不動産(以下「本件各不動産」という。)について、各根抵当権(以下「本件各根抵当権」という。)の設定を受けた。Xは、Yから貸付けを受けたが、平成26年5月、期限の利益を喪失した。

2 Xは、平成28年7月、破産手続開始決定を受け、A弁護士が破産管財人(以下「本件破産管財人」という。)に選任された。Xが上記破産手続開始決定を受けたことにより、本件各抵当権の担保すべき元本が確定した(民法第398条の20第1項第4号)。本件各根抵当権の被担保債権は、上記貸付けに係る債権(以下「本件被担保債権」という。)である。

3 本件破産管財人は、本件各不動産につき、任意売却を検討し、Yとの間で本件各不動産の受戻しについて交渉(以下「本件交渉」という。)したが、任意売却の見込みが立たず、Yに対し、破産財団から放棄する予定である旨の破産規則第56条後段所定の通知(以下「本件事前通知」という。)をした上で、平成29年2月28日付けの書面により、破産裁判所の許可を得て本件各不動産を破産財団から放棄した旨の通知(以下「本件放棄通知」という。)をした。本件破産管財人は、本件交渉、本件事前通知及び本件放棄通知をするに際し、Yに対して本件各被担保債権が存在する旨の認識を表示した。

4 裁判所は、平成29年5月、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足することを理由に、破産手続廃止決定をした。

5 Yは、令和4年1月、本件各根抵当権の実行としての競売の申立てをし、その後、上記申立てに基づき、本件各不動産について担保不動産競売の開始決定をされた。

6 これに対し、Xが、本件被担保債権が時効によって消滅したことにより、本件各根抵当権も消滅したと主張して、上記競売手続の停止及び本件各根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした。

【争点】

 破産手続において、本件破産管財人は、本件被担保債権が存在する旨の認識の表示をしていたことから、上記認識の表示が本件被担保債権についての債務の承認(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)第147条第3号)としてその消滅時効を中断する効力をするか否か。

【下級審の判断】

 原々審、原審は、上記認識の表示が債務の承認に当たり、本件被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するから、本件被担保債権の消滅時効は完成していないとして、本件申立てを却下すべきものとした。

 これに対し、Xが抗告許可の申立てをし、原審が抗告を許可した。

 なお、本件の関連事件として、X所有の他の不動産についての根抵当権の実行としての競売手続の停止等の仮処分命令申立事件があり、上記関連事件でも本件と同様の点が争われたが、関連事件では、上記認識の表示は本件被担保債権の消滅時効を中断する効力を有しないとして、上記仮処分命令の申立てを認容する旨の決定を認可する決定がされており(札幌高決令和4年10月11日)、本件の原審とは異なる判断を示していた。

【裁判所の判断】

 「破産管財人は、その職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権限を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものである(同法44条参照)。破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について上記別除権を有する者との間で交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に上記の者に対してその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、これらに際し、破産管財人が上記の者に対して上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるものであり、上記権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為ということができる。

 そうすると、破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。

【コメント】

 破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて、上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利を放棄する前後に上記別除権を有する者に対してその旨を通知するに際し、上記別除権を有する者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するとの最高裁判所の判断が示されたものであり、実務上重要であると思われるため、紹介した。

 なお、平成29年法律第44号による改正後の民法第152条では、時効中断事由としての承認は時効の更新事由と整理されたが、本決定の考え方は時効の更新事由としての承認にも妥当するものと考えられる。

以上

参考文献

最高裁判所民事判例集 77巻2号183頁

判例タイムズ 1511号119頁

金融・商事判例 1678号14頁

銀行法務21 897号69頁

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