【論稿】伴走支援を踏まえた経営改善の一視点

(弁護士 富永高朗)

1 はじめに

 中小企業庁では、令和3年10月に「伴走支援の在り方検討会」を設置し、令和4年3月「経営力再構築伴走支援モデル」を公表、令和5年6月には、経営力再構築伴走支援(以下「伴走支援」という)ガイドライン(以下「ガイドライン」という)を公表した。

 日本弁護士連合会では、令和5年6月16日、地域の多様性を支える中小企業・小規模事業者の伴走支援に積極的に取り組む宣言(以下「本宣言」という)を採択している。

 本稿では、弁護士による伴走支援を踏まえた経営改善に関し、活用が考えられる視点の提示を試みるものである。

2 伴走支援 

 伴走支援は、経営者との「対話と傾聴」を通じて、経営者に企業の本質的な課題への気づきを促し、内発的な動機付けにより社内の潜在力を発揮させ、企業による課題解決を支援することにより企業の「自己変革力」の向上、「自走化」の促進を図っていく支援方法である。

 これまでの中小企業支援では、個別課題への相談、助言や施策情報の提供あるいは特定課題の解決のためのサービス等、専門知識を有する支援者が解決策を提示する「課題解決型」の支援方法が主として展開されてきた。

 しかし、経営者自身に見えていない、気づいていない潜在的なニーズに対しては、そもそも何が本質的な課題かを特定していく「課題設定型」の支援が必要な場合があると考えられる(令和4年7月11日付中小企業庁・経営力再構築伴走支援について4頁)。

 人間の体に置き換えると、以下のような例があげられる。

 すなわち、メタボ体質が問題であるという場面で、ダイエット方法は様々あるところ、そうした解決方法に単にすがるだけでは、リバウンドすることも少なくない。

 むしろ、自分自身の課題が何であるかに、気づき、例えば、食生活・運動パターンの改善を試みることが必要である等腹落ちを経て、解決のための計画を立てて行動する、といった自己の行動変革がより大切である、といった視点である。

 企業経営における課題設定においては、経営環境の変化もめまぐるしい時代である以上、本質的課題に気づくことも容易でないこともある。伴走支援を通じて、そのような気づき・腹落ち(納得)を得るには、伴走者との信頼関係の構築が不可欠である。

 そこで、中小企業庁では、上記1のガイドライン公表後、伴走支援プラットフォームを公開し、各企業の経営者と支援機関との信頼関係の素地の作り方や、信頼関係構築につながった事例の公開を進めている。

 本宣言でも「弁護士においても、既に顕在化した課題に対する解決策を提示するだけではなく、事実認定能力及び多角的分析力を活かし、中小企業・小規模事業者との対等な関係における「対話と傾聴」によって、中小企業・小規模事業者とその経営環境に対する理解を深め、中小企業・小規模事業者が直面する「経営課題の設定」とその解決に向けた意思決定及び実行のプロセスに伴走支援ができるよう、支援の在り方を深化させるべきである。」とされている。

 本宣言では、顧問弁護士の活用についても、「中小企業・小規模事業者の成長と発展に貢献するからこそ、平時における弁護士への情報共有がより活性化し、その事業における法的リスク等が顕在化する前に、適切な課題設定と具体的な対策の検討・実行が可能になる。さらには、中小企業・小規模事業者のなりたい姿や目標を共有することによって、弁護士からの能動的な情報提供や企業価値向上に向けた提案を行うことも可能になる。」との指摘もある。 

 チャンスは別の顔をしてやってくる、といった指摘ではないが、経営者の方々も、本質的な問題・課題とは異なる(表面的)相談を弁護士に対して行うケースもある。

 相談された弁護士としても、そのような場面を想定し、目の前の相談等の課題解決にとどめず、雑談等による安心安全感の滋養や、支援・改善事例などを提示することで、隠れた経営課題や深刻化する可能性がある問題についても、経営者に対して思い切って相談してもらう素地をさらに作っていくことが望ましいと考えられる。

3 経営改善に関する視点

 他方、新型コロナウィルス感染症拡大に対する実質無利子・無担保融資の返済開始を迎え、各企業において、いわば経営改善待ったなしといった状況にあるものと思われる。

 私的整理の入り口段階で案件に関与する弁護士は少ないとの指摘がある中(加藤寛史ほか「準則型私的整理の現状と弁護士の役割」事業再生と債権管理168号(2020年)67頁加藤氏発言等)、それ以前の伴走支援の過程でも、弁護士による経営改善の潜在的ニーズは少なくなくなっていくものと考えられる。

 認定経営革新等支援機関の支援により、いわゆる405事業に基づいて経営改善計画を策定する場合、令和4年12月策定の収益力改善支援に関する実務指針(概要やチェックリストについては、中小企業収益力改善支援研究会(第4回) 配布資料に掲載がある。)に沿って支援検討する立て付けとなっている。 

 同指針では、経営改善計画策定支援における着眼点、伴走支援における着眼点、ガバナンス体制の整備支援の実務と着眼点に関する指摘があり、仮に405事業を利用しない場合であっても、それぞれ非常に参考になる(計画策定・伴走支援の全体構造等については、丸山和宏「経営改善計画策定支援事業の支援強化に向けた取り組み」事業再生と債権管理177号(2022年)33頁が詳細である。)。

 特に、計画策定の着眼点では、現状分析から経営課題の明確化へのプロセスがわかりやすく提示されている。この経営課題の明確化やそれまでの「対話と傾聴」を通じたプロセスは、上記2の「課題設定型」の支援と重なるものと考えられる。

 何より、資金繰りの重要性については、論をまたない(社長・税理士・弁護士のための私的再建の手引き【第2版】第8章資金繰り表の作成手順 111頁[徳永信ほか]、中小企業再生のための特定調停手続きの新運用の実務 経営者保証に関するガイドライン対応 日本弁護士連合会日弁連中小企業法律支援センター 編 91頁 弁護士による経営改善支援[堂野達之]、収益力改善支援に関する実務指針11頁)。

 近時、資金繰りについては、各地のよろず支援拠点につなぐことで、コストを抑えつつも、支援を受ける可能性がある、という話も伺った。時間的余裕があるときや、弁護士マターとしては他の経営課題への対処が優先する場合などには、利用可能性を検討して参りたい。

 中小企業では、現状分析のフェイズにおいて、どの顧客・商品を通じて、事業が成り立っているのかの数値的把握が十分とは言えないケースも少なくない。例えば売上・粗利益の把握程度にとどまり、顧客・商品ごとに、販管費を各売上げ比率等で割り付けた場合に、営業利益が出る状況にあるのか、それらの数値的な月別の変動はどうか等には目配りができていないなどである。今後の注力すべき分野や捨てるべき取引などの打つ手を誤りかねないため、重要な課題となり得ると考えられる。

 また、人的物的投資に当たって、事前予測検討やその為のヒアリング等が乏しいケースも散見される。他人と過去は変えられない、自分と未来は変えられる等の指摘も踏まえ、投資規模に応じた一定の調査や具体的な事実に基づいた投資計画を立てた上で、振り返り・進捗管理の実施が望ましいと思われる。金融機関や取引先・社員などからの、企業・経営者自身への信頼の更なる向上につなげたい(経営者保証を提供しない信用保証制度等の枠組みの利用を目指す場合もあるのではと思われる)。

 弁護士の場合、いわゆる企業のお葬式のフェイズについての経験や事業破綻の要因と向き合った経験も少なくない。このことから、粉飾等の安易な回避策などではなく、経営課題に真摯に向き合うことの重要性・深刻さ等について、特定情報は排除しつつも一定の具体的説得性をもって、経営者に語ることもできるものである。中小企業の事業再生等に関するガイドライン第2部平時における各種示唆(「経営情報等について…開示・説明を受けた金融機関は…情報開示に至った経緯やその内容等を踏まえ、誠実な対応に努める」等)も、経営者の情報開示等に関する心理的安全性を高める上では有効と考えられる。

 「中小企業再生に取り組むうえで、弁護士が経営コンサルタントの方々と基本的に異なる点は、職業的倫理観とか公平感といったことを御旗印に掲げることができるところにあると思います。」(銀行法務21別冊事業再生シリーズ「中小企業再生の現場と実務」越純一郎監修 118頁 [髙橋修平])との指摘も、大変参考となる。

 なお、金融支援を受ける上でも、事業承継の場面は活用可能性があるのではないかと考えられる。金融機関に対して、企業側として一定の経営責任を取るという側面もあることから、潜在的粉飾について説明開示しやすく、また、金融機関としても事業継続が望ましいことから、経営改善等にも一定の理解が得られやすい場合がある。

4 時限的な制度枠組みに関する視点

 経営改善の計画策定に関し、令和6年3月8日付再生支援の総合的対策が公表され(https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20240308-1/01.pdfhttps://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20240308-1/02.pdf)、日本政策金融公庫のコロナ資本性劣後ローン、経営サポート会議の経営改善サポート保証についても、令和6年6月まで延長となった。

 両枠組みについては以下の特徴がある。

⑴ 日本政策金融公庫のコロナ資本性劣後ローン

 債務を一部疑似資本化することで、企業への財務評価等の更なる向上へつなげ、いわゆる民間融資の呼び水効果などを企図した枠組みである。 

 返済額の限定による資金繰り軽減の効果があるほか、従前の劣後ローンに比べても、低金利、モニタリング負担の限定などの効果もある。 

 認定経営支援機関としての計画策定や、民間金融機関等による支援を受けられる等の支援体制の構築などが利用要件となっている。

 活用事例集書式も公開されている。

⑵ 経営改善サポート保証

 経営改善サポート保証は、保証協会を事務局とした経営サポート会議を通じた経営改善の枠組みである。  

 信用保証協会付の借入が多数という場合などに利用しやすいと考えられる。

 コロナ対応の枠組みは、従前よりも、責任共有割合に関する点で、民間金融機関の理解を得やすく、また、各企業にとって、保証料率、保証期間、据置期間等について、利用しやすい設計になっている(参考書式)。 

5 まとめ 

 伴走支援の背景には、東日本大震災後のとある商店への支援を通じて、少しずつ、当地に人が集まり、企業・商店も集まり、街が一歩ずつ再興していったというストーリーがあるとのことである。ひいては、経営者の自己改革の広がりにより、人口減少社会にある我が国の再興も究極目的となるのではないかと考えられる。

 もっとも、上記2の「対話と傾聴」の過程では、様々な、我慢・忍耐が必要な場面も少なくない。

 諸先輩方のアドバイス※ などをも踏まえて、一歩ずつ向き合って参りたいところである。

 ※「早く処理したい、依頼者の納得を得るよりも案件を多くこなしたいというのが多くの弁護士の本音かもしれませんが、倒産・再生案件ではそう割り切るわけにもいきません。ひたすら忍耐が必要です。この忍耐が次の信用を生んでいくものと思います。」銀行法務21別冊事業再生シリーズ「中小企業再生の現場と実務」越純一郎監修 125頁 [髙橋修平]。

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