【論稿】福祉事業の倒産処理における課題

(弁護士 中川智貴)

第1 はじめに

 我が国の福祉事業においては、高齢者福祉や障害者福祉など様々なものがあるが、近年、高齢者福祉の分野では介護サービス事業所を運営する事業者の倒産の増加、障害者福祉の分野では障害福祉サービス事業所を運営する事業者の倒産の増加が見られる。

 本稿では、福祉事業のうち障害福祉サービス事業に焦点を当て、福祉事業の倒産処理における課題を考察する。

第2 障害福祉サービス事業とは

1 障害者総合支援法によれば、「『障害福祉サービス』とは、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、施設入所支援、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援、自立生活援助及び共同生活援助をいい、『障害福祉サービス事業』とは、障害福祉サービスを行う事業をいう。」とされている。

 例えば、いわゆるグループホームは、同法が定める共同生活援助[1]の障害福祉サービスを提供する施設である。

2 障害福祉サービス事業への民間事業者の参入

 障害福祉サービスについては、2006年4月の障害者自立支援法の施行により規制が大幅に緩和された後、2013年4月の障害者総合支援法への改正を経て、民間事業者の参入が増加している。

第3 障害福祉サービス事業の経営の現状

1 障害福祉サービス事業の特徴

 障害福祉サービス事業の特徴として、①報酬が一律で決まっている点、②深刻な従業員不足が挙げられる。

2 障害福祉サービス事業の経営難

⑴ 物価高騰による経営難

 障害福祉サービス事業においても、近年の光熱費の値上がりなど物価高騰によりコスト増の影響を受けて収益が悪化している。

 また、上記②の深刻な従業員不足のため、人件費のコストが上昇しており、そのことも収益を悪化させている。

 一方で、上記①のとおり、障害福祉サービス報酬が一律で決まっているため、増加したコスト分を障害福祉サービス報酬の値上げで転嫁することが出来ず、経営難を生じさせている。

⑵ 深刻な従業員不足

 障害福祉サービス事業においては、支援事業によってサービス管理責任者などの人員配置基準が設けられており、深刻な従業員不足により人員配置基準を満たすことが困難なケースが多くあり、そのことによる経営難も発生している。

3 障害福祉サービス事業の倒産・休廃業・解散の推移

 株式会社東京商工リサーチによると[2]、「2020年の『障害者福祉事業』の倒産と休廃業・解散(以下、休廃業)は、合計127件(前年比6.6%減)だった。2013年以来、7年ぶりに減少したが、2019年に続き2年連続で100件を上回った。倒産は20件(同33.3%減)と、新型コロナ支援効果で抑制された。一方、休廃業は107件(同0.9%増)で過去最多を更新、明暗を分けた。休廃業が増えた要因は、慢性的な人手不足に加え、コロナ禍の感染防止対策への負担増など、深刻な業績低迷も大きい。」とのことである。

   

第4 障害福祉サービス事業の倒産処理における課題

1 倒産処理における課題

 障害福祉サービス事業所を運営する事業者が倒産すると、当該サービス利用者が日常的に利用している支援を受けることが出来ず、サービス利用者の生活に直結する支障が生じるおそれがある。特に、居住系の障害福祉サービス事業の施設を運営する事業者が倒産する場合においては、施設入居者は当該施設を退去せざるを得ず、安定した居住先を失う危険がある。

 そのため、障害福祉サービス事業の施設を運営する事業者が倒産する場合には、新たな福祉施設へのスムーズな移行が重要な課題となる。

2 障害福祉サービス事業の倒産処理において事業譲渡をする場合の留意点

 障害福祉サービス事業の倒産処理において、新たな福祉施設へのスムーズな移行をする方法の一つとして事業譲渡をすることが考えられる。

 事業譲渡においての留意点は数多くあるが、いくつかを挙げる。

⑴ 都道府県知事の指定

 障害福祉サービス事業においては、都道府県知事の指定を受けた事業者(指定障害福祉サービス事業者)が障害福祉サービスを提供するので、事業譲渡を行う場合は、譲渡人の廃止の手続きに加え譲受人の新規の指定申請手続きを同時に行わなければならない。

 なお、事業譲渡に際して、民間のコンサルタントのサポートを利用する場合のほか、日本政策金融公庫のサポートを利用する例もあるようである。

⑵ 事業譲渡にあたり人材の流出がないよう配慮が必要であること

 障害福祉サービス事業においては、支援事業によってサービス管理責任者などの人員配置基準が設けられており、事業譲渡に際して人材の流出があると人員配置基準を満たすことが困難な場合がある。事業譲渡にあたり人材の流出がないよう配慮する必要がある。

第5 おわりに

 障害福祉サービス事業の経営難が生じている現状において、今後、障害福祉サービス事業の施設を運営する事業者の倒産が増加することもあり得る。

 倒産処理を担う弁護士として、障害福祉サービス利用者の生活に支障が生じないように新たな福祉施設へのスムーズな移行をすることにも配慮した倒産処理を行えるよう、これからも研鑽を積んでいく所存である。


[1] 「共同生活援助」とは、障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排せつ若しくは食事の介護その他の日常生活上の援助を行い、又はこれに併せて、居宅における自立した日常生活への移行を希望する入居者につき、当該日常生活への移行及び移行後の定着に関する相談その他の主務省令で定める援助を行うことをいう(障害者総合支援法第5条17項)。

[2] 株式会社東京商工リサーチ「2020年「障害者福祉事業」倒産と休廃業・解散調査」

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