【論稿】小規模個人再生における債権者一覧表備考欄の記載とみなし届出(民事再生法第225条)の適用について

(文責:弁護士 片上誠之) 

1 本稿での検討事項等について 

当職は、小規模個人再生手続において、手続開始申立時提出の債権者一覧表の備考欄に記載された保証人の求償債権について、民事再生法第225条のみなし届出の適用があるかどうかが問題となる事例に接した。みなし届出について検討した内容を、参考のために、本稿に取りまとめるものである。 

本稿での想定事例、検討事項及び問題の所在は次のとおりである。 

(1)想定事例 

債務者が負担する債務に保証人が存在し、保証人が手続開始前に原債権者に対し全額代位弁済していた状況下、手続開始申立時提出の債権者一覧表には原債権者が再生債権者として記載され、保証人は原債権者にかかる備考欄に名称のみ記載され、別個の再生債権者としては記載されていなかった(保証人の名称以外の住所等は記載されていない。)。手続開始後、原債権者からは原債権の届出はなされず、一方、保証人からは、債権届出期間を経過した2日後に、求償権についての債権届出がなされた。再生債務者は、一般異議申述期間の初日までに、みなし届出の適用のあった原債権については全額異議を出し、保証人が届け出た求償権全額を認める旨の債権認否一覧表を提出した。異議が出された原債権については、評価の申立てはなされなかった。 

保証人が債権届出期間までに債権届出をしなかったことについては、保証人に帰責事由があるものと考えられ、法第95条による追完は認められない状況であった。 

再生債務者は、裁判所に対し、再生計画案と返済計画表を提出した。 

(2)検討事項 

上記事例において、保証人の求償権は、法第225条のみなし届出の適用があることを理由として、法第231条第2項第3号の基準債権に含まれると解することが可能か。すなわち、再生計画認可をするためには、計画弁済総額が最低弁済額以上であることが必要であるが、計画弁済総額に保証人に対する弁済額を含むと解することができるか。 

(3)問題の所在 

上記事例において、保証人は債権届出期間経過後に債権届出をしており、法第225条のみなし届出の適用がない場合には、自認債権として取り扱われることになる。そして、自認債権は基準債権には含まれないと解されることから、保証人の求償権を除く再生債権額(別除権部分を除く)が基準債権額となり、これに基づき法定の最低弁済額が決まる。この最低弁済額の枠外で、自認債権に対して再生計画に基づく弁済をする必要がある。したがって、保証人の求償権を除く再生債権(別除権部分は除く)に対する弁済額をもって法定の最低弁済額を満たしたうえで、これとは別に、保証人の求償権に対する弁済が必要となる。 

一方、保証人の求償権につき法第225条のみなし届出の適用があれば、同債権は、自認債権ではなく無異議債権(法第230条第8項)として基準債権に含まれる。この場合、保証人の求償権を含めた再生債権(別除権部分は除く)の総額に基づいて、法定の最低弁済額が決まる。 

たとえば、保証人の求償権が300万円、その他の再生債権(別除権部分は除く)が1300万円である場合(合計1600万円の場合)、みなし届出の適用があれば法定の最低弁済額は300万円である(法第231条第2項第4号)。一方、みなし届出の適用がないと、基準債権は1300万円となり、法定の最低弁済額はその20%である260万円となり(同号)、一方自認債権たる保証人の求償権に対する弁済額60万円(300万円の20%)を加算した320万円が再生計画に基づく弁済総額となる。 

また、保証人の求償権が300万円、その他の再生債権(別除権部分は除く)が200万円の場合(合計500万円の場合)、みなし届出の適用があれば、法定の最低弁済額は100万円となるが(同号)、みなし届出の適用がないと、その他の再生債権に対する法定の最低弁済額が100万円(弁済率50%)となり(同号)、一方、求償権に対する弁済額150万円(300万円の50%)を加算した250万円が再生計画に基づく弁済額となる。 

このように、保証人の求償権にかかるみなし届出の適用の有無は、再生計画に基づく弁済額に大きな影響を及ぼすところである。 

2 小規模個人再生の手続一般 

(1)債権者一覧表の作成 

小規模個人再生手続では、手続き開始申立時に、再生債権者の氏名及び名称等を記載した債権者一覧表を裁判所に提出する必要がある(法第221条第3項)。通常の民事再生手続では、民事再生規則第14条第1項第3号が債権者一覧表の提出を要求しているが、訓示規定と解されている。これに対し、小規模個人再生手続では、債権者一覧表の提出は必須であり、債権者一覧表が提出されない場合には、小規模個人再生手続を開始できない(法第221条第7項)。 

小規模個人再生手続では、無担保再生債権の総額が5000万円以下であることが要件とされており(法第221条第1項)、再生債権の額や別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる再生債権の額(担保不足見込額)を、申立時に迅速に把握する必要があるためである。 

債権一覧表の記載事項は次のとおり規定されている(法第221条第3項・第4項、規則第114条第1項)。 

①再生債権者の氏名又は名称並びに各再生債権の額及び原因 

②別除権者については、その別除権の目的である財産及び別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる再生債権の額 

③住宅資金貸付債権については、その旨 

④住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思があるときは、その旨 

⑤再生債権者の住所、郵便番号及び電話番号(ファクシミリの番号を含む。) 

⑥法第84条(再生債権となる請求権)第2項各号に掲げる請求権については、その旨 

⑦執行力ある債務名義又は終局判決のある債権については、その旨 

⑧債権の額及び担保不足見込額の全部又は一部に異議を述べる可能性がある場合には、その旨  

(2)債権者一覧表への具体的記載方法 

再生債権にかかる債務について保証人が存在する場合、債権者一覧表には、通常、以下の記載がなされる。 

 ① 保証人の代位弁済前 

原債権者を債権者一覧表に記載し、保証人は備考欄に記載する。 

 ② 保証人の代位弁済後 

求償債権者として保証人を債権者一覧表に記載し、備考欄において、原債権者名を記載する。 

 ③ 保証人の代位弁済の有無が不明の場合 

原債権者を債権者一覧表に記載したうえで、これとは別に、保証人についても求償債権者として債権者一覧表に記載する。ただし、債権額は0円とする。 

なお、裁判所により一般的取り扱いは異なる。例えば、保証人の代位弁済前においては、東京地方裁判所では上記①の取り扱いとされるが、大阪地方裁判所では、保証人の代位弁済前であっても、将来の求償権として保証人を債権者一覧表に記載し、債権額は0円と記載する扱いである(個人再生の実務Q&A120問・77頁)。 

(3)保証人による権利行使の方法 

小規模個人再生手続において、保証人が権利行使をする手続としては次が考えられる。 

 ① 保証人自身が求償債権について債権届出を行う。 

   ただし、原債権者が小規模個人再生手続に参加したときは、保証人は手続に参加できない(法第86条第2項、破産法第104条第3項)。 

 ② 原債権者が届け出た原債権について、全額の代位弁済後、原債権者と連名で名義変更手続を行う。 

   なお、全額を代位弁済すれば、連名で名義変更手続きをとらずとも、保証人は、原債権について権利行使できる(法第86条第2項、破産法第104条第4項)。 

(4)債権届出期間後の届出債権及びみなし届出 

再生債権者による債権届出は債権届出期間内に行う必要があり、期間後に届出された債権については、再生手続には参加できない。期限後に届け出られた債権は、再生計画で定められた弁済期間が満了するまでは弁済等が受けられないという劣後的な扱いを受ける(法第232条第3項)。 

再生債権者が、その責めに帰することのできない事由によって、期限内に債権届出できなかった場合には、その事由が消滅した後1か月以内に限り、債権届出の追完が可能とされ(法第95条)、この場合、特別異議申述期間が定められる(法第226条第2項)。 

「責めに帰することができない事由」に関し、債権者一覧表に債権が記載されておらず開始決定の通知を受けていないというだけでは帰責事由がないと考えるのは困難との指摘がある(個人再生の手引き213頁)。なお、大阪地方裁判所では、比較的緩やかに解されているようである(個人再生の実務Q&A120問・69頁) 

(5)自認債権 

小規模個人再生手続においても、自認債権の規定(法第101条第3項)は適用されると解されている(個人再生の手引き208頁)。 

東京地方裁判所では、再生債務者から債権認否一覧表が提出された際に、債権者一覧表に記載されていなかった債権を認める旨の記載がなされ、かつ、当該債権者から届出がされなかった場合には、自認債権として取り扱われる運用である。また、債権届出期間後に債権届出がなされた債権についても、一般異議申述期間の初日までに提出する債権認否表に記載することで自認債権として取り扱うことが可能である(個人再生の手引き212頁)。 

(6)計画弁済総額にかかる要件 

再生計画案に基づく弁済額は最低額が法定されており、具体的には無異議債権及び評価済債権の額に応じて、当該額の一定割合を上回ること、及び下限・上限が規定されている(法第231条第2項第3号及び第4号)。 

実務上、自認債権は、無異議債権及び評価済債権には含まれないと解されている(個人再生の手引き303頁)。 

3 検討 

(1) 検討点 

想定事例では、手続開始申立時に裁判所に提出された債権者一覧表には、保証人は独立した債権者としては記載されておらず、原債権者にかかる備考欄に保証人の名称のみが記載されていた。この場合にみなし届出の適用があるかどうか、すなわち保証人が「債権者一覧表に記載されている再生債権者」(法第225条)に該当するかどうかが問題となる。 

「債権者一覧表に記載されている再生債権者」(法第225条)の具体的な意味については、学説においても実務においても、詰めた議論はされていないように思われるところ、肯定する見解及び否定する見解の両方がありうるものと考える。 

 ① 肯定する見解 

   債権者一覧表にかかる法的記載事項のうち、債権者の名称は明記され、再生債権の原因については「保証」と、債権額については原債権の金額として記載されており、最低限の情報は記載されている。保証人に独立した債権者番号は付されていないが、債権者番号は法定の記載事項ではない。 

   再生債権者の住所、郵便番号および電話番号(ファクシミリ番号)の記載はないが、これらは再生債務者において把握できない場合には空欄で提出されることもあり、これら記載が欠けていることはそれほど重視されるべきではない。 

   したがって、「債権者一覧表に記載されている再生債権者」に該当する。 

 ② 否定する見解 

   保証人に独立した債権者番号は付されておらず、また、住所、郵便番号、ファクシミリ番号も記載されておらず、必要な記載を充足しないことから、「債権者一覧表に記載されている再生債権者」には該当しない。 

(2)私見 

みなし規定の適用を認める見解が妥当であると考える。 

上記の理由に加えて、みなし届出の適用を認めても債権者間の公平を害するものでもない。また、問題の所在において既述したとおり、みなし届出の適用を否定することによって、再生計画に基づく弁済額が増加する事態となりうるところ、弁済額の増額という経済的再起の支障となる不利益を再生債務者に甘受させるべき事情は見当たらないからである。 

法文上、小規模個人再生における自認債権の取り扱いは明確にされていないが、最低弁済額の算定にあたっては、自認債権が基準債権に含まれないことを前提とする実務運用がなされている。この結果、想定事例では、みなし届出の適用が否定されれば、再生計画に基づく弁済額が増額されることとなる。想定事例の場合には、保証人の求償権につきみなし届出の適用を認めることによって、不合理な結論を回避することが適切であると思われる。 

(3) ある事例 

当職が接した、ある事例では、裁判所は、債権者一覧表の記載事項が法定されていることを重視し、実際に提出されていた債権者一覧表の記載事項が不十分であったことから、みなし規定の適用を否定する意見であった。結果、再生計画に基づく弁済額は、みなし届出の適用を認める場合よりも増額されるに至った。 

4 実務対応 

(1)みなし届出の適用を受けるための対応 

以上に述べたとおり、保証人の求償権については、備考欄への名称の記載のみでは、みなし届出の適用が認められず、自認債権として取り扱うことになる可能性が高い。そこで、再生債務者代理人としては、債権者一覧表作成の際、保証人を原債権者とは別個の再生債権者として取り扱い債権者一覧表に記載することが考えられる。この場合、原債権と求償権と二重で計上することになるが、その旨を債権者一覧表に記載するとともに、法第221条第4項に基づき異議を述べることがある旨を記載しておけば、不都合が生じることは回避できると思われる。 

また、備考欄への記載を選択するとしても、できる限り柔軟な対応を可能とするため、法定の記載事項(法第221条第3項、規則第114条)を遺漏なく記載しておくことが必要であろう。 

(2)自認債権とするかどうか 

債権届出期間後に届け出られた債権については、債権認否一覧表において自認債権として取り扱うことを避けないと、再生計画に基づく弁済額が想定外に増額することになりかねない。この点は、通常の再生手続とは異なる。再生債務者の利益のためには、たとえ1日の届出期間経過であっても自認すべきではない、との実務対応が基本とならざるをえないが、保証人が個人の場合などには、保証人と再生債務者との個人的関係に鑑みて、こういった機械的な対応をすべきか否かは悩ましいところである。 

(作成日:2021年5月18日) 

以上 

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