【論稿】破産債権の劣後化と破産管財人の対応

(執筆者:弁護士 元由 亮)

 本稿では、特に破産手続の場合に焦点を当てて、破産債権の劣後化と、これに対する破産管財人としての対応について解説します。

1 破産債権の劣後化とは

 破産債権の劣後化とは、ある破産債権を当該債権者の意思にかかわらず劣後的破産債権とすることをいいます(後掲『破産法・民事再生法(第5版)』311頁)。

 民事再生手続および会社更生手続の場合には、「衡平を害しない場合」(民事再生法155条1項但書、会社更生法168条1項但書)には、特定の債権者に対する不平等な扱いが明文で許容されており、これらの再建型手続においては、この「衡平を害しない場合」の文言に該当するかという形で特定の債権者の債権の劣後化が問題になります。

 他方、破産法を見ると、194条2項が「同一順位において配当をすべき破産債権については、それぞれの債権の額の割合に応じて、配当をする」という規定を置いているものの、上記の民事再生法155条1項但書、会社更生法168条1項但書に対応する規定は設けられていません。このように、破産手続においては特定の破産債権を劣後化する根拠規定が存在しないものの、後述する裁判例では、破産手続においても、信義則(民法1条2項)を根拠として劣後化が肯定され得るという考え方がとられています。

2 劣後化が問題になる場面

 破産債権の劣後化が問題となる例としては、子会社の破産における親会社の債権や、会社の破産における取締役など内部者の債権などが挙げられることが多いですが、裁判において劣後化の有無が争われた例としては以下があります。

(1)破産手続における劣後化が争われた例

①東京地判平成3年12月16日(金判903号39頁)(否定例)

 この事件は、X社の100%子会社である会社が破産し、X社が金融機関に対する保証債務履行によって取得した事後求償権等を破産債権として届け出たところ、破産管財人Yおよび他の破産債権者から異議を述べられ、X社が破産債権確定訴訟を提起したという事案です。破産管財人Yらは、「制定法上の根拠」、「判例上の根拠」、「倒産法上の一般原則、条理、米国及びドイツ判例法の根拠」を挙げてX社の破産債権が劣後化すると主張しました。

 裁判所は、以下のように述べ、結論としてX社の破産債権の劣後化を否定しました。

 まず、1点目の「制定法上の根拠」については、「本件破産債権は、破産法46条各号(筆者注:現行破産法99条)に規定する劣後的破産債権のいずれにも該当せず、かつ、本件劣後的取扱いについて、破産法その他制定法上明確に規定する条文は存在しない」と述べました。

 次に、2点目の「判例上の根拠」について、破産管財人Yらは後掲の東京高決昭和40年2月11日(下民集16巻2号240頁)および福岡高決昭和56年12月21日(判事1046号127頁)を挙げていました。裁判所は、「そのいずれも会社更生手続に関するものであること、破産法と異なり、会社更生法には同法229条(筆者注:現行会社更生法168条1項但書)という差別的取扱いを許容する明文が存在することなどからすると、右決定事例は、本件と事案を異にする」と述べ、これらの決定を根拠に本件で劣後化を認めることはできないと判断しました。

 最後に、3点目の「倒産法上の一般原則、条理、米国及びドイツ判例法の根拠」については、「いずれも本件劣後的取扱いを考える上で参考になるものであるが、未だその要件及び効果が明確になっておらず、我が国における学説上も十分な議論が尽くされているとは言いがたく、発展途上の段階にあるようであるので、現段階の法解釈としては、現行法上本件劣後的取扱いを認めることはできない」と判断しています。

②広島地福山支判平成10年3月6日(判時1660号112頁)(肯定例)

 この事件は、破産会社の借入れについて連帯保証していたX社が、当該保証債務の履行によって事後求償権を取得し、その一部を破産債権として届け出たところ、破産管財人Yおよび一部債権者が異議を述べたため、X社が破産債権確定訴訟を提起したという事案です。本件では、X社は単に破産会社の債務を連帯保証していただけでなく、同社の経営全般を管理支配していたという事情がありました。

 この訴訟において、破産管財人Yらは、アメリカ法の判例法理である「ディープロック理論」や信義則違反を根拠にX社の破産債権の劣後化を主張していました。ディープロック理論は、アメリカにおいてTaylor v. Standard Gas & Elec.Co,306 U.S.307(1948)等の判決によって形成された法理で、課税負担回避等の目的で出資を減らし貸付を多くする「過小資本」などの場合に、衡平の原則によって特定債権の劣後化を認めるものであり、現在は連邦倒産法510条(c)(2)として条文化されています。

 裁判所は、「本件届出債権に対する右法理論(筆者注:前述のディープロック理論)の適用をいうYの主張はそれ自体失というほかない」としつつ、「右法理論の背景にあるとされる『公平(衡平)の原理』は我が国の破産手続においても妥当するものであって、形式的には一般破産債権者とされる者であっても、破産者との関係、破産者の事業経営に対する関与の仕方・程度等によっては、破産手続上他の一般破産債権者と平等の立場で破産財団から配当を受けるべく債権を行使することが信義則に反し許されない場合もあるというべきであり(民法1条2項)、Yらの主張も論旨全体からすると右の信義則違反をいうものと解することができる」と述べ、実体法上の信義則(民法1条2項)を根拠とする破産債権の劣後化があり得ると判断しました(具体的な事例の解決としても、X社と破産会社には資本関係がないことを指摘しつつ、資金面で全面的な支援があったこと、およびX社が破産会社の経営全般を管理支配してきたことなどを重視し、X社の破産債権の劣後化を肯定しています。)。

(2)再建型手続における劣後化が争われた事例

 民事再生手続および会社更生手続において債権の劣後化が争われた事例としては、以下の5件があります。本稿はあくまで破産手続との関係に焦点を当てているため、ごく簡単な紹介にとどめます(本稿で紹介した裁判例については、後掲「劣後債権」264頁以下が、清算型・再建型を通じた横断的な分析を行っています。)。

③東京高決昭和40年2月11日(下民集16巻2号240頁)(会社更生・劣後化肯定)

④福岡高決昭和56年12月21日(判事1046号127頁)(会社更生・劣後化肯定)

⑤名古屋高金沢支決昭和59年9月1日(判時1142号141頁)(会社更生・劣後化否定)

⑥東京高決平成22年6月30日(判タ1372号228頁①)(民事再生・劣後化否定)

⑦東京高決平成23年7月4日(判タ1372号233頁②)(民事再生・劣後化否定)

3 破産管財人の対応

 劣後化の可能性がある債権者から破産債権の届け出がなされ場合、破産管財人としては以下のような対応をとることが考えられます。

(1)取下げ勧告による和解的処理

 前述のとおり、劣後化について明文規定を欠く破産手続において、破産管財人の実務上の対応としては、劣後的取扱いをするべき事情がある破産債権者に対して、債権届出しないように促すことが考えられます。また、債権届出がなされた場合には、一種の和解的処理を実現するため任意の交渉を通じて、破産債権の全部または一部を取り下げるよう勧告するといった対応が行われています。

(2)異議(いわゆる戦略的異議)

 上記のような勧告に従わない場合には、前述の広島地福山支判平成10年3月6日(判時1660号112頁)のように信義則(民法1条2項)等を根拠として、破産債権に異議を述べることがあります。

(3)役員の任務懈怠に基づく損害賠償請求権との相殺処理

 さらに、劣後化が問題になる債権者が破産会社の役員であった場合には、破産管財人として当該役員を相手方とした役員責任査定の申立て(破産法178条)を行い、当該役員に対する損害賠償請求権を自働債権として相殺または相殺的処理を行うという方法もあり得るところです。

(4)その他

 なお、代表者の破産会社に対する債権の劣後化が問題になる場合であっても、代表者も破産手続開始決定を受けているときには、代表者の破産会社に対する貸付債権等(=破産債権)は代表者の破産財団を構成し、代表者の破産事件での配当原資にもなることから、通常は異議を述べる必要はないとされています(後掲『破産管財の手引(第2版)』287頁)。

参考文献

・伊藤眞『破産法・民事再生法(第5版)』(有斐閣・2022年)311頁

・中山孝雄・金澤秀樹編『破産管財の手引(第2版)』(きんざい・2015年)286頁

・岡伸浩ほか『破産管財人の債権調査・配当』(商事法務・2017年)305頁

・杉本和士「劣後債権」園尾隆司・多比羅誠編『倒産法の判例・実務・改正提言』261頁

・髙木新二郎『アメリカ連邦倒産法』(商事法務研究会・1996年)204頁

・福岡真之介『アメリカ連邦倒産法概説(第2版)』(商事法務・2017年)220頁

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