【論稿】輸入ユーザンスと発行依頼人(買主/輸入者)の倒産

(文責:弁護士 田村 伸吾)

1.輸入ユーザンスとは

 貿易取引における代金の支払いに関して、銀行が発行する荷為替信用状(Letter of Credit、L/C)が用いられることがあります。荷為替信用状取引の仕組みは概ね以下のとおりです。発行依頼人(買主/輸入者)と受益者(売主/輸出者)との間の売買契約の締結(①)に始まり、信用状の発行(②~④)、船積(⑤⑥)、受益者から発行銀行への順次の船積証券(B/L)の引渡しと資金決済(⑦~⑩)を経て、最後に、発行依頼人は、発行銀行に代金を支払って(⑪)、これと引き換えに船積証券(B/L)の引渡しを受け、これを運送人に提示して(⑬)、輸入貨物の引渡しを受けることができます(⑭)。

※荷為替手形=為替手形+船積書類(船積証券(B/L)を含む)

 発行依頼人と発行銀行との関係については、通常のケースでは、発行依頼人が発行銀行に対して決済(代金支払)をし、これと引き換えに船積証券(B/L)の交付を受けることにより、荷為替信用状取引は終了します。

 ところが、発行依頼人の資金繰りの問題などにより、発行銀行に対する決済ができないことがあります。この場合、発行依頼人としては、船積証券ないし輸入貨物を受け取れず、仕入れが滞ることになりますので、事業継続に支障を来すことになります。そこで、発行銀行は、発行依頼人が日本国内で輸入貨物を販売してその代金を回収するまでの間、決済を猶予することがあり、このような金融取引を「輸入ユーザンス」といいます。

 発行依頼人は、輸入ユーザンスによる決済の猶予を受ける一方で、発行銀行との間で輸入担保物保管に関する約定書等を締結して輸入貨物および船積証券の貸渡し(荷物貸渡し=Trust Receipt=T/R)を受けて、輸入貨物を受け取り、これを販売するなどして回収した代金をもって、発行銀行に対する決済に当てることになります。

 では、輸入ユーザンスにより決済を猶予して、輸入貨物および船積証券を貸渡した後に、発行依頼人が破産した場合、発行銀行は、発行依頼人に対して有する信用状取引に関する債権をどのように回収するのでしょうか。

2.輸入貨物が発行依頼人の手許に残っている場合

 まずは、輸入貨物が発行依頼人の手許に残っている場合です。信用状の発行に際して発行依頼人と発行銀行の間で締結される信用状取引約定書では、輸入貨物および船積証券について譲渡担保権を設定する旨が規定されていることが一般的です。譲渡担保権の倒産手続における取扱いについては、判例は会社更生手続においては更生担保権とし(最判昭和41年4月28日民集20巻4号900頁)、民事再生手続においては別除権としており(最判平成18年7月20日民集60巻6号2499頁)、破産手続においても別除権として理解するのが多数説とされています。別除権として取り扱われれば破産手続によらないで担保権を行使することができますので(破産法65条)、発行銀行は、譲渡担保権の実行として発行依頼人から輸入貨物の引渡を受け、これを処分・換価することにより債権の回収を図ることになります。

3.輸入貨物が売却済みの場合

 次に、輸入貨物が売却済みの場合はどうでしょうか。本来であれば、担保権者(ここでは発行銀行)と輸入貨物の転得者たる第三者との関係については、対抗要件(譲渡担保においては民法183条の占有改定によることが多いと思われます。)の具備の先後により決せられることになります(民法178条)。ところが、荷物貸渡し(T/R)においては、発行銀行が発行依頼人による輸入貨物の売却を許容していることがほとんどで、この場合には既に第三者に対する売却および引渡が完了していれば、発行銀行は当該第三者に対して輸入貨物の返還を請求することはできなくなります。また、当該第三者が善意無過失の場合には、これに即時取得(民法192条)が認められる可能性もあります。

 但し、発行銀行は、その売却代金債権について、輸入貨物に設定された譲渡担保権に基づく物上代位権(民法304条)を行使することにより、債権回収を図ることが可能です(譲渡担保権に基づく物上代位権の行使について最決平成11年5月17日民集53巻5号863頁)。これに対して、輸入貨物が売却・引渡済みで、かつ、発行依頼人により代金も回収済みの場合には、物上代位権を行使することはできなくなりますので、注意が必要です。

4.終わりに

 発行銀行としては、依頼を受けて荷為替信用状を発行したにもかかわらず、事業者(発行依頼人)の資金繰り・経営状況により決済が行われない場合でも、事業者の仕入れを止めるとその事業継続が困難となることへの配慮や、発行銀行が事業者破綻のトリガーを引いたと評されかねないレピュテーションリスクへの懸念、輸入貨物を自ら処分する負担などを考慮して、輸入ユーザンスによる決済の猶予、輸入貨物および船積証券の貸渡しを行うことも少なくないと思われます。しかしながら、これは信用状取引に際して有していた輸入貨物および船積証券に係る譲渡担保権を失う可能性がありますので、その後の輸入貨物の把握と、事業者のモニタリングを十分に行う必要があると考えられます。

【参考文献】

  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング編「貿易と信用状-UCP600に基づく解説と実務」(中央経済社 2011年7月25日)
  • 金子修・神田秀樹・中務嗣治郎・古澤知之監修「金融機関の法務対策6000講 第Ⅲ巻 付随業務・周辺業務・Fintech編」(きんざい 2022年2月14日)

最新会員論稿

アーカイブ

PAGE TOP