【論稿】私的整理手続と法的倒産手続の異同と手続の選択

文責:弁護士 内藤滋

1 各手続の利用状況

最近、民事再生手続及び会社更生手続(以下本稿において「法的倒産手続」という)の減少傾向と私的整理手続の増加傾向が顕著である。特に、会社更生手続の申立ては多くても年間数件程度に留まっている。

 私的整理手続を利用するメリットとして一般の指摘されている点としては、密行性、商取引債権を対象としないことによる事業価値維持効果、迅速性、費用の低廉性等があるが、これに加えて近年では後述の準則型私的整理手続が整備されたこと、中小企業支援協議会において暫定リスケ制度、新型コロナ特例リスケ制度が進められたこと等が私的整理手続が多く活用される理由として挙げられる。

 しかし一方で、いったん私的整理手続を開始し、または準備しつつも、途中で法的倒産手続に移行し、又は私的整理手続と法的倒産手続を併用して事業再生を完遂する案件も一定数見受けられる。

 また、同じ法的倒産手続の中でも、いったんは民事再生手続を進めながらも、途中で会社更生手続に移行する案件も一定数存する。

 このように近年では、手続を移行するケース、手続を併用するケースが増加しているが、これは、事業再生手法が多様化し、かつ、いずれの手続も有用であることを示すものとして積極的に評価できる。特に、私的整理手続においては、特定調停、事業再生ADR、中小企業再生支援協議会(以下「協議会」という)、地域経済活性化支援機構(以下「REVIC」という)といった制度が整備され(以下併せて「準則型私的整理手続」という)、これにより、以前は私的整理手続のデメリットと言われていた公正・中立性が保てるようになった。また、法的倒産手続においても、少額債権弁済許可制度を用いた商取引債権の保護や、手続の迅速化等の様々な制度的工夫がなされており、以前は法的倒産手続のデメリットとされた事業価値毀損リスクは大幅に軽減されている。

事業再生に関与する者は、多様な各手続のメリット、デメリットを十分に理解うえで、迅速に最適な手続を選択する必要がある。

2 私的整理手続と法的倒産手続の異同

 ここで改めて、私的整理手続と法的倒産手続の異同を確認すると、次の表のように整理できる。

番号項目私的整理民事再生会社更生
1商取引債権原則手続外原則手続内原則手続内
2秘匿性非公開公表公表
3レピュテーションリスク低い高い高い
4事業再生計画成立要件全員賛成出席債権者の過半数
+ 総議決権の1/2以上の賛成
総議決権の1/2超の賛成(更生債権)
5弁済禁止、執行禁止の強制力なしありあり
6非届出債権の失権効なしありあり
7双方未履行双務契約の解除権なしありあり
8事業譲渡等の代替許可制度なしありあり
9担保権消滅請求権なしありあり
10外国倒産処理手続の承認手続なしありあり
11自認債権制度なしありなし
12担保権の権利行使制限なしなし(別除権)あり
13事業再生計画による組織再編××

 上表において、1~3番が近年、私的整理手続が多く利用されるようになった最大の理由といえる。つまり、商取引債権を手続の対象としないため、従前の取引先に手続に入ったことを知られることなく、取引を継続できることにより、信用毀損を回避することができることは極めて重大な手続選択のポイントである。法的倒産手続に入ると、官報公告や帝国データバンク等により、早晩、取引先にも手続入りしたことが知られることになり、その事実自体が取引停止や取引条件の厳格化につながるリスクがある。

 そのため、資金繰りとの関係で商取引債権についても弁済を停止しないと、資金繰りが破綻する恐れがない限りは、私的整理手続がファーストチョイスになる。

 そのなかでも、リスケに留まらず、債務免除を受ける必要性がある事案においては、純粋私的整理手続により完結することは難しく、通常は、準則型私的整理手続による必要がある。

 これに対して、法的倒産手続を直ちに選択するのは、①商取引債権も手続に加えないと資金繰りが破綻する可能性が高い場合、②重大な不適切会計の存在や横領事象等により、債権者との信頼関係が破綻し、私的整理手続における賛成が得られる見込みがないこと、➂上表の法的倒産手続の特色に鑑み、その特色を利用することが事業再生につながると見込まれること等の場合に限定されると思われる。

 また、いったん私的整理手続にトライしたものの、債権者の一部から賛成を得られなかったり、法的倒産手続の強力なツールを活用する必要性が認められた場合には、法的倒産手続に移行することを検討してよい。

3 私的整理手続から法的倒産手続に移行した例

 いったん私的整理手続を進めようとしたものの法的倒産手続に移行した例は数多い。

 以下、筆者が関与した事例をいくつか紹介する。

(1)JAL

 JALは当初、事業再生ADRを申請し、一時停止の承認を得るとともに、企業再生支援機構(以下「ETIC」という。)に対し、再生支援要請のための事前相談を開始した(筆者は、ADRにおける手続実施者の補佐人を務めた)。しかし、JALの事業再生のためには、①取引金融債権者から債務減免を受けるだけでは足りず、特に従業員(退職者を含む)の年金の減免の必要である等、多様で錯綜する利害関係人の権利調整を行う必要があること、②国際便が多数運航されており、海外資産にも事業再生手続の効力を及ぼす必要があること、➂ETICを通じて巨額の公的資金を投入する以上、国民への説明責任を果たす必要があり、そのためにはできる限り透明・中立・公正性を高めた手続が採用されるべきこと等の理由から、更生手続を利用することになった。

(2)ウィルコム

ウィルコムもJAL同様、当初は事業再生ADRによる再建の道を模索し、併せてETICの投融資機能、調整機能等を期待して、事前相談を進めていた。

その後、会社更生手続に以降して、事業再生ADRは取下げたが、ETICによる支援を受けながら更生手続を進めた(筆者は、保全管理人代理、管財人代理を務めた)。

 この件では、①債権者の構成として、金融債権約980億円の他に、リース債権約350億円、社債350億円、その他債権約150億円という状況であった。つまり、ローン債権は過半をわずかに超える程度であり、それ以外の債権の割合が多かった。そのため、ローン債権のみを対象とした私的整理手続だけで事業再生を達成するのは難しく、上記各債権を手続に取り込んで多岐にわたる利害関係を適切に調整することが必要であった。 

 特に、この件では、商取引債権については、会社更生法47条5項後段の少額債権弁済許可により多くは全額について計画外で弁済を実施したのに対して、リース債権については、この少額弁済許可の対象にならなかったため、大きな反発が生じ、厳しい交渉調整を行う必要があった。そこで、ファイナンス・リース債権を更生担保権として手続内に取り込める会社更生手続によらなければ解決は困難であったと言える。

(3)三光汽船

三光汽船を中心とする企業グループは、外国航路を中心とした海運業及びその附帯事業を主たる事業としており、外航海運業の中でも不定期船事業に特化していた。

 リーマンショックによる世界経済の低迷に伴い、輸送需要の伸びは急速に鈍化し、資金繰りに窮する状況に陥った。そこで三光汽船は、海外取引金融機関に対して、一時停止の通知を発送し、借入金の支払の繰延べを要請するとともに、造船所に対しても、建造中支払及び竣工船についての支払いの繰延べを要請(いわゆるStand Stillの要請)する通知を行い、私的整理交渉の国際標準である「INSOL8原則」 に基づいた私的整理手続を、ロンドンを中心に行うこととなった。また、国内取引金融機関を対象に、事業再生ADR手続の利用申請を行った。

 しかし、三光汽船へ用船している船主が、三光汽船所有船舶や用船料債権に対する差押え、船舶の引上げを行いはじめた。そこで、事業再生ADR手続を取り下げた後、東京地裁に更生手続開始申立てを行い、同手続が開始された(当職は、調査委員兼監督委員の補助者を務めた)。

① 外国倒産処理手続による承認

 この件では、海外での差押等に対抗するため、外国倒産処理手続による承認申請を行った。米国連邦破産裁判所からはチャプター15の適用が認められ、これにより、日本で申立てられた更生手続は「外国主手続」として承認され、かかる承認を受け、三光汽船が再建に取り組む期間中、三光汽船の米国における資産は自動停止(オートマティック・ステイ) により保護されることになった。またUNCITRAL国際倒産モデル法に基づき、英国高等法院に対して、日本において開始された三光汽船に係る更生手続の承認等を求めて申立てを行い、承認された。その他の国及び地域においても、三光汽船は更生手続に基づく強制執行禁止等の効力が承認かつ発動されるために必要と判断する措置を順次講じた。このような海外における日本の事業再生手続の承認制度は、会社更生や民事再生といった法的倒産手続のみに対して行われるものであり、私的整理手続には適用されないものである。

② 双方未履行の双務契約の解除等

 三光汽船は、海運市況が好調であったときに高値で長期用船契約を結び、継続的に高い用船料を支払わなければならない一方、リーマンショック以降の不況によって、用船した船を第三者に安値で再用船する等しており、深刻な逆ざや状態になった。

これを改善するため、逆ざやの大きい用船契約については、契約の継続が困難であることから、会社更生法61条1項に基づき、裁判所の許可を得て双方未履行双務契約の解除を行った。この解除権は法的倒産手続に特別に認められた権限であり、私的整理手続では利用できないものである。

(4)データセンターA社

データセンター業を営むA社は、金融機関からの借入れと地元自治体からの補助金によりデータセンターを開業した。開業当初から、計画どおりに取引が拡大せず資金繰りは厳しかったが、それでも一時期は、仮想通貨業者との取引が増加し、損益状況は改善に向かった。しかし仮想通貨業界自体の停滞により同業者との取引が終了したため、その後は赤字が拡大し、資金繰りに窮する状況となった。

そこで、いわゆるプレパッケージ型民事再生手続による事業再生を目指しつつ、まずは純粋私的整理手続によりバンクミーティングを重ねるとともに、著名なFAに依頼して、スポンサーの探索を行った。

しかし、私的整理手続のなかでは、同業他社や関連業種への呼びかけが中心になったところ、50社前後にあたったものの、最終的に1社も支援表明はなされなかった。

資金繰りを親会社からの支援でしのいでいたこともあり、スポンサー候補が現れない中では親会社としても支援を継続することは困難ということになり、最後に、民事再生手続を行って新たなFAを起用したうえでさらにスポンサーを探索し、それでもだめであれば、破産に移行することもやむなしと考えた(当職は、私的整理手続、民事再生手続を通じて債務者代理人を務めた)。

再生手続開始決定を得たのが、2020年3月と、新型コロナウイルス感染症の拡大がはじまった時期であり、スポンサー探索をするには最悪の状況であったが、民事再生手続開始がなされた旨、官報公告のみならず、帝国データバンクや東京商工リサーチを通じて広く公表してもらった。

FAの努力もあり、また、補助金を得た地元自治体の応援等もあって、私的整理手続時とは異なる数社が支援検討先として上がった。最終的にはDD等の結果、なんとか1社のみが最終的に支援表明を行い、スポンサー契約締結、再生計画策定、可決、認可へとこぎつけた。民事再生の公表は、通常はレピュテーションリスクの拡大につながると思われがちであるが、幅広く全国からスポンサーを探索するためには、有益な面もあることが本件によって認識された。

4 結論

 私的整理手続と法的倒産手続はそれぞれにメリット、デメリットがある。それらを十分に理解したうえで、事案の特色に応じて、どの手続を利用することが事業再建のために適切・有効であるかを判断する必要がある。また、まずは私的整理手続を進めたとしても、最後まで同じ手続に固執する必要はない。事業再建という目的のために、手続の途中で他の手続を組み合わせたり、他の手続に移行することにより、両手続のメリットを最大限に発揮できることもある。手続の併用、移行を常に検討することが必要である。

参考文献

 本稿は、次の拙稿を参考にして執筆しております。適宜ご参照ください。

・「事業再生手法の流動化 -私的整理手続から法的整理手続への移行、両手続の併用、法的整理手続間の移行等を行った各事例の検証-」(「多様化する事業再生」(商事法務)野村剛司編集代表に所収)

・「事業再生ADRから会社更生への手続移行に際しての問題点と課題(1)~(3)-日本航空、ウィルコム、林原の事案を参考にして」(共著・NBL953号~955号)

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