【論稿】暗号資産、電子マネー・スマホ決済の取扱い

(文責:弁護士 今井悠生) 

1 背景 

近年、暗号資産(仮想通貨)に代表される新しい形態の資産が増えるとともに、モノ・サービスの購入方法や決済手段についても、電子マネーやスマホ決済など多様化しています。暗号資産としては、ビットコインをはじめとする仮想通貨が個人レベルでも資産の一つとして浸透してきたほか、いわゆる電子マネーやスマホ決済は、コンビニや飲食店でよく見かけるようになりました。 

キャッシュレスの推進とコロナ禍における非接触決済の需要も相まって、今後も上記の傾向は続くと予想されますが、倒産手続においては、未だ取扱い事例がそれほど蓄積あるいは共有されておらず、申立段階や手続開始後において都度手探りで対応を検討する状況ではないかと考えられます。そこで、以下、個人破産申立ての場面を念頭に、主に破産者の財産としての暗号資産について、付随的に電子マネー・スマホ決済について、これらを取り扱う際の視点や注意点について触れてみたいと思います。 

2 暗号資産(仮想通貨) 

⑴「暗号資産」の意義については、「資金決済に関する法律」第2条第5項に規定がありますが、かみ砕いた内容としては、日本銀行ホームページの「教えて!にちぎん」コーナー内にある「暗号資産(仮想通貨)とは何ですか?」の記載が分かりやすいと思います。 

当該記載によれば、暗号資産は「不特定の者に対して、代金の支払い等に使用できる」ことが特徴の一つですが、現状のところ価値の上昇に期待する投資対象としての側面が強く、少なくとも日本では代金の支払い方法としてはほとんど使用されていないと思われます。そのため、破産手続においても、「通貨」というより評価額の変動する資産として把握する方が適切と考えられます。 

代表的な仮想通貨としては『ビットコイン』や『イーサリアム』があり、「取引所」「交換所」と呼ばれる「暗号資産交換業者」(代表的な業者は『ビットフライヤー』、『コインチェック』など)において口座を開設することで、仮想通貨の入手・換金ができるようになります。 

⑵破産手続申立てとの関係では、まず資産目録に記載すべき財産を調査する際どのように仮想通貨を把握するかですが、交換業者において口座を開設したあと実際に仮想通貨を入手するには銀行口座からの入金が必要になるため、伝統的(?)な方法である銀行の預金通帳の記載あるいは取引明細をチェックすることが挙げられます。 

次に、資産目録への記載についてですが、交換業者の口座内には、①実際に入手した仮想通貨(『ビットコイン』であれば「0.2BTC」など)と、②入金した預金の残高(「〇〇円」)の2つが存在する場合が多いと考えられるため、①については日本円への換金が必要になります。これにより口座ごとの金額を把握することができ、たとえば東京地裁への申立てであれば同時廃止で済むのか、あるいは管財事件なのかが判断できます。なお、資産目録上どの項目に計上するかについて、仮想通貨の換金後であれば金額が確定しているため①②ともに「預金」として問題ないと思われますが、換金前は評価額が変動するため、①については「有価証券等」としての計上も考えられます。 

⑶当初から管財事件見込みであれば、申立て段階では換金が済んでいなくても手続は開始されると思われますが、仮想通貨は現在のところ騰落傾向が大きいため、手続開始後に換金する場合には開始決定時より価値が大きく上昇あるいは下落していることがあり得ます。 

たとえば『ビットコイン』では、1BTCの価値が半年足らずの間に400万円ほど変動したこともあり、いつ換金するかの影響が顕著になる可能性があります。同時廃止を検討するような個人破産の場合には、ビットコインを保有していたとしても単位が小さく(たとえば「0.01BTC」など)大きな影響はないといえそうですが、法人代表者の同時破産のようなケースで資産に相応のビットコインがある場合、管財人としては、換金時期について他の資産とは異なる注意が必要になるかもしれません。 

いずれにせよ、資産に仮想通貨が含まれている場合には、特別の事情がない限り、申立て前に換金し金額を確定させておくことが無難ではないでしょうか。 

3 電子マネー・スマホ決済 

次に、上記暗号資産とは対照的に「代金の支払い」として普及している電子マネー・スマホ決済について簡単に触れたいと思います。 

⑴ 電子マネー 

「電子マネー」については特に定まった意義があるわけではなく、法律用語でもありませんが、ここでは身近に普及しており遭遇する場面が多いという点で『WAON』や『Suica』、『nanaco』等を念頭に置いています。 

これらの電子マネーについては、①事前に金銭をチャージしておく前払い式(プリペイド式)か、②クレジットカード等と連動させる後払い式か、㋐ICチップ等により端末自体で決済するカード型か、㋑サーバ上の金銭情報で決済するネットワーク型か、等の分類ができます。 

後述のスマホ決済と比べると比較的少額の金銭決済に限定して使用されるため、破産申立てにあたって問題になることは少ないと思われますが、強いていうなら①や㋐のタイプはほとんど現金同等物と考えられるため、残高がある場合には資産目録上「現金」に計上したうえ、33万円を超えないかどうかを把握することが自然と思われます。一方、②や㋑のタイプは、単にクレジットカード払いの債務、あるいは銀行の預金残高等として把握すれば足りると考えられます。 

なお、東京地裁民事20部に問い合わせたところ、資産目録上どの項目に計上するかについては代理人にお任せしており特に基準は定めておりませんとのことでした。 

⑵スマホ決済(コード決済) 

スマホ決済は、コンビニで買い物をする等の場面において、利用者がスマートフォン上でアプリを起動してQRコードやバーコードを表示し店側に読み取ってもらう(レジ脇の読み取り端末にかざす等)、あるいは利用者が店側のQRコードやバーコードをスマホで読み取る方法により行います。代表的なサービスとしては、『PayPay』や『LINE Pay』があります。 

これらのサービスにおいても、電子マネー同様、支払い方法について①(ATM等からの)現金チャージ、②クレジットカードとの連動、③銀行口座との連動等の分類が可能であることから、資産目録への記載にあたっては、①については「現金」、②③については「預金」として計上したうえ、項目ごとの合計額を把握する方法が考えられます。 

ただ、たとえば『PayPay』では1日の支払い及びチャージ限度額が50万円と比較的高額になるため、電子マネー以上に財産調査が重要になりそうです。特に①現金チャージの場合は、銀行の取引履歴やクレジットカード明細をみても分からないため、まずはサービスを利用しているか(アプリを使っているか)を確認する必要があります。スマホ決済については、財産調査にあたって見落としがないよう、自戒の意味も込めて意識して臨みたいところです。 

以上

(受領2021年5月14日) 

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