【論稿】倒産手続と雇用契約

弁護士 堀田陽平

(作成日:2021年5月13日)

1 はじめに 

企業の経営資源は、「ヒト」、「モノ」、「カネ」であるところ、企業が倒産手続に入る場面においては、「モノ」、「カネ」の処理だけでなく、「ヒト」、すなわち従業員をどのように取り扱うかも問題になります。 

本稿では、破産手続における従業員の処遇について説明いたします。 

2 破産手続開始決定と雇用契約 

雇用契約と同様に役務提供型の契約であるとされる委任契約は、破産手続開始決定がなされると、当然に終了します(民法653条2号)。また、請負契約については請負人に破産手続開始決定があった場合には、原則として双方未履行双務契約に関する規定(破産法53条等)が適用され、注文者が破産した場合には、請負人又は破産管財人から契約の解除をすることができます(民法642条)。 

他方で、雇用契約については、破産手続開始決定によっても契約の帰趨に影響を受けません。 

したがって、使用者が従業員を解雇する場合や、従業員側から退職する場合でない限りは、破産手続開始決定がなされても雇用契約は存続することになります。 

3 破産手続開始申立前に従業員を解雇すべきか 

清算手続である破産手続においては、原則的には、破産手続の申立前に解雇をしておくことが多いでしょう。これは、破産手続開始決定後、破産管財人が解雇を通知することへの従業員の反発や、解雇予告手当が財団債権となり(後述)、破産財団からの負担が増えるということ等が理由として挙げられます。 

もっとも、破産手続開始決定後も破産管財人において事業継続することが予想されている場合や、破産手続開始決定後も従業員の補助が必要な場合には、破産手続の申立前に解雇をせず、破産手続開始決定後も従業員の協力を得ることも考えられます。この場合、破産手続開始決定から雇用契約終了までの賃金債権や解雇予告手当は、財団債権となります(破148条1項8号)。 

解雇予告手当についても、財団債権として従業員に支払がなされるものの、破産財団からの支出を減らす観点からは、破産手続開始決定の直前に解雇予告を行い、予告期間中に補助業務を完了させるということも考えられます。 

このように、破産手続開始決定後の従業員の補助の要否や事業継続の可能性、その他、破産財団の維持の観点から、従業員を解雇するべきか、またどのタイミングで解雇をすべきかを慎重に検討する必要があります。 

4 倒産手続と整理解雇の有効性 

⑴ 整理解雇の4要素 

上記2のとおり、破産手続開始決定によっても、雇用契約は影響を受けず、したがって解雇にあたっても、特別の定めはなく、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」との労働契約法16条の定めが適用されることになります。 

倒産手続との関係において検討される解雇は、「整理解雇」です。 

整理解雇については、裁判例によって、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③人選の合理性、そして④説明・協議等の解雇手続の妥当性の「4要素」に照らして有効性を判断するという法理が形成されており、一般的には、従業員側に帰責性がないことから解雇の有効性は厳格に判断されます。 

⑵ 清算手続(又は会社解散)と整理解雇 

清算手続である破産手続においては、終局的には雇用契約は解消されるという特殊性があることから、上記4要素はそのまま適用されるのではなく、修正して適用される傾向にあります。 

例えば、破産手続ではないものの会社解散に伴う解雇の有効性が争われた事案であるグリン製菓事件(大阪地決平成10年7月7日)では、「解散に伴う解雇を考える場合に、…人員整理の必要性は、会社が解散される以上、原則としてその必要性は肯定されるから、これを問題とすることは少ないであろう。また解雇回避努力についても、それをせねばならない理由は原則としてないものと考える。しかし、整理基準及び適用の合理性とか、整理解雇手続の相当性・合理性の要件については、企業廃止に伴う全員解雇の場合においては、解雇条件の内容の公正さ又は適用の平等、解雇手続の適正さとして、考慮されるべき判断基準となるものと解される」とし、整理解雇の判断基準によって判断しつつも、一定の修正を加えて判断しています。 

また、裁判例の中には、「法人の破産においては従業員との雇用関係を含め、その全財産を清算することが予定されているのであるから、企業が存続することを前提とする整理解雇の法理は適用されないというべきである。」として、整理解雇の法理の適用を明確に排除したものもあります(浅井運送事件・大阪地判平成11年11月17日)。 

いずれにせよ、清算手続との関係においては、整理解雇の法理は、緩和する方向での修正又は法理の適用の排除がなされる傾向にあります。 

⑶ 再建手続と整理解雇 

他方で、再建手続においては、企業は存続することとなります。 

そのため、整理解雇の法理は、修正されることなくそのまま適用されるとするのが裁判例、労働法学説の一般的な考え方となっています。 

会社更生手続において、管財人が行った整理解雇の有効性が争われた事案(日本航空事件・東京高判平成26年6月5日、同平成26年6月3日)では、整理解雇の法理を適用し、上記4要素に照らして解雇の有効性が判断されています(結論は解雇有効)。とはいえ、この場合でも、「倒産状態にある」という事情は、有効性判断にあたって十分に考慮されることになります。 

5 最後に 

本稿では、倒産手続と雇用契約の関係については解説いたしました。 

本稿でも述べたとおり、倒産手続においても雇用契約に直接の影響はなく、倒産法的観点に加え労働法的観点も併せて、対応方針の検討が必要となることに注意しましょう。 

(参考文献) 

・中山孝雄/金澤秀樹編『破産管財の手引』(第2版)きんざい、206頁~207頁 

・東京弁護士会倒産法部編『破産申立マニュアル』(第2版)商事法務、176頁~178頁 

・荒木尚志『労働法』(第4版)有斐閣、337頁~339頁 

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